【カクヨム向き】文豪ランキング ~日本編~

小余綾香

第1位 夏目漱石

 小説投稿サイト向き文豪と言えば、この人。夏目漱石。


『吾輩は猫である』


 題がキャッチーだ。


――え? 何処が?


 うん。百年前のキャッチー、今は通用し難い。

 なので、この感覚を今風に変換してみる。


『転生したらニャンコだった件』


 正直、語り手(猫)は日本人が記憶を持った儘、転生したとしか思えない。

 転生モノの中でも既存の生命体を人格のみ乗っ取る、入れ替わりタイプだろう。


「ニャーニャー泣いていた事だけは記憶している」


 という純粋な猫時代が意識に存在しているらしいが、生まれてすぐ捨てられる過程で既に人語でものを考える。ヒトの赤子でも無理だ。

 この短期間に恐らく、どこかの時代から日本人が転生し、前世の記憶が戻り切っていないのだろう。

 異世界には行けなかったが、そこの非力な側の生命体に人間の知性挿入、という、百年以上のブーム先取り。然も、転生先でスローライフする割と新しめなファンタジー系統だ。


 カクヨムならばキャッチコピーも付けよう。


「陰キャなオタク主人に猫パンチ! 俺様猫の不器用もふもふライフ」


 もふもふ好きのDNAまでお見通しだった夏目漱石の先見たるや、予知の域だ。



 真面目な話、1905年にタイトルで文章スタイルを取り入れるのは、相当、斬新だと思う。そう、ラノベのタイトルが句読点を必要とする文章になった様な。

 その頃の他の小説名、


 1890年『舞姫』森鴎外

 1895年『たけくらべ』樋口一葉

 1900年『高野聖』泉鏡花

 1907年『風流懺法』高浜虚子


 名詞でなければならないローカルルールがあったのか的な状態だ。

 前年に詩で『君死にたまふことなかれ』があるが、これは文語。それに対し、当時の「である」は書き言葉として、くだけた文体だ。


 そこに吾輩を結び付ける辺りが漱石の上手さだと思う。


 20世紀初頭の「吾輩」には、令和の時代の「わたくし」に似た大仰さを感じる。取り敢えず、「わたくし」は現在、二次元を除くと、十代は使わないだろう。そんな感じ。

 この作品が書かれた頃、吾輩という人称は少なくとも属性、自意識、目線を示す一種のアイコン的だった筈。それを滲ませるには効果的だ。


 でも、ゆるーい者が使ったら?

 滑稽だ。

 然も、猫である、と続くのだ。この違和感ある組み合わせの面白さ。更に内容の方向性を示唆出来る。

 

 夏目漱石、恐るべし。きっと作品が人目に触れないと嘆くネット投稿環境の中でも彼の手にかかれば印象的なタイトルになる。

 取り敢えず、PVを獲得出来るタイプの作者だ。


 中身を開かせた先で、テンポ良く話を運び、興味を引き付けるのも特技。

 というより、うっかりページを開かされた読者を、鮮やかな登場人物と知識と捻りの効いた設定で「おぉ!」と思わせる自信があるからこそ、そういうタイトルを付けられるし、活きる。

 読者はあっという間に10話くらい捲ってしまい、その辺で残り話数を確かめる。


――え? 残り25話? 読めなくないけど今イッキはなぁ……。どうしよっか……えぇい、取り敢えず作品フォロー!


 罠である。

 つい通ってしまい覚えて、ユーザーフォロー。

 いろいろ巧み過ぎる作者の為、拗らせたファンも多いが、ID:夏目漱石さんの作品へ真っ先にコメントをくれるのは意外とこのツンデレさんに多い。


 多分、読者はレビューがポンポン思い付く。


『それから』

→『東大ニート、嫁奪うために●活します!!』


『坊ちゃん』

→『ブラック旧制中学はのぞき発、隠蔽経由のパワハラ行』


 基本的にレビューが書き易いのは、色が立っている等、優れた作品だからだ。

 作品にレビューを書かせる力があれば、度々トップページに上がるのだ。更に人目に触れる。


 きっと夏目漱石はこんな王道で『注目の作品』常連へと昇るだろう。

 是非、転生するなら、現世の人間界でカクヨム属性にお願いします。アナタが書かれるネット投稿作を私は一番、読みたい。

 ここで前世は漱石に違いない、と思える方を発見出来たら私は心底、幸せだ。

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