第10位 井原西鶴
言うまでもない。彼はエロ……「色」を描ける作家である。
全人類の多数決により1つだけネットで行えるジャンルが選ばれることになったなら、エロスが残りそうだ、と私は思う。
職場で10年以上、情報機器担当だった私は、その間、大勢のPCのキャッシュにエロ画像を見付けた。その頃はセキュリティが緩く、職場のPCで彼方此方アクセス出来ていた為、残業の折にそういうサイトに出かける人が多かったらしい。
つまり、エロは需要がある。
作家としての処女作がエロい系、という腹の括り方。ある意味、素晴らしい。
『好色一代男』
⇒『あれこれ♥イロイロ試した男の手記』
堂々と正規(?)アダルトサイトの視聴権を購入出来ない年齢層や性格の人はこんなタイトルに思わず興味を持つかもしれない。
ここに小説という媒体のメリットがある、と私は思う。
官能を売りにした時、画像・映像媒体だと生々しくなる。どんなにアートを唱え、実際に当事者も視聴者もそのつもりだったとしても、実用で考える目は世の中にはある。シーレの絵や女子スポーツの画像についてさえ、そういう見方はあるのだから。
それを認識している為、堂々とアクセス出来ない人はいるだろう。
しかし、これが文字表現となると少なくともワンクッション置かれる。そこに言い訳(大抵は自分への弁解)が成り立つ。この精神的負担の軽減はなかなか大きいのではないか。
官能も身も蓋もない赤裸々な表現から、詩的なものまで様々だが、文字から自力で想像する、というステップがあることで知的な緩衝が入る。
この一段階を利用するのはPVが欲しい場合、有効だ。
「エロ目的じゃない。この話が読みたいだけ」
「エロは如何でも良いんだけど、このキャラ好きなんだよね」
そういう主張の成り立つ面白くてエロいストーリーは自ずと人気を集めるだろう。
これを『好色一代男』は『源氏物語』のパロディという形によって満たす。他の作品も時事風刺等、知的な遊びという表の楽しみと並行するエロさだからこそ、より広い層に読まれる。
当時も絶対にいた筈だ。
「いやいや、あれは本当は学識を問う高度な話で、それに気付くかを西鶴は試しているんだよ」
「下々の者はエロだの何だの上っ面しか読まないが、そういう話じゃない」
こんな風に語ることでシッカリ楽しむ知識人。
そう言って問題ない内容だから、堂々と主張出来る。このレベルの高さは自分を大っぴらに曝け出せない立場の人間には有難かろう。
彼はネットで投稿する際に、そういう「言い訳」を求めるタイプを明確に意識して書いて来るだろう。
初めから「言い訳」を必要としないタイプはもっと即物的なエロスを選ぶ可能性が高いのだから、それを除外したマーケティング意識はエロさを売りとする時の要だ。井原西鶴はそれに自覚的な作品を書くと思う。
例えば、女性向け、を押し出してくるかもしれない。
何しろ『好色一代男』など、ショタ好きや腐好きのオネーサマ的にツボに嵌りそうな部分もあるのだ。というより、始まりはショタが一番喜びそうだ。
「灯り消したら、こっち来て」
と。小学校に入学する頃の男の子が夜、目覚めてトイレ行こうというお子様シーンで言う。相手はメイド。なんか可愛い。
と思ったら、
「明るいと淫靡な楽しみがないでしょ?」
なんてことを言う。美少年を沢山集めた漫画やゲームに一人いそうなキャラだ。
そんな彼が成長と共に、男も女も相手にする話……と言えば、きっと「男」の方にアンテナが反応した方もあるのではないか。
但し、PVの割に応援の♡や評価の☆は貰えない。
何故なら、エロいジャンルでコメントなしに♡や☆を押した痕跡を残す度胸が余りない人こそがメイン・ターゲット層だからだ。
エロが良かった訳ではない、他の部分も判って読んでいる、という主張が出来るコメントが反応する時の核になってしまう以上、どうしても数や率では分が悪い。
だから、彼は他のジャンルの新作を書き、エロを通して見せつけた他の魅力で、そちらにファンを誘う。
そちらはPVでは元のジャンル程ではないだろうが、♡や☆の確率は高くなる。
これが彼が注目される作品を書き、且つ、一桁順位になり得ないと考える理由だ。
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