[短編(市場)]あ、行き倒れだ2

 静かだ。二階に部屋を作ったあの子は、まだ寝てるんだろうか?

 申し訳程度の陽の光を感じて、夜ではないらしい。昨晩は、ようやく手に入った遺産をいじりたおしてたから……って、枕にしてたみたいだ。

 壊れてないか確認してから、それは邪魔にならない隅っこに。寝床から這い出てみるも、やっぱり二階は静だ。

 出掛けたのかもしれない。忍び足で? それとも単に気づかなかったのか。きっと彼女なりの気遣いであると思うことにしておく。

 まだ体が重い気がする。夜更かしもあるだろうけど、森になんて入ることはそうそう、なかったもんな。あるとしても、父上に……。

 むず痒い感覚に頭を振る。もうあんなやつと暮らすのはごめんだ。もう、もう……。

 よし、外に行こう。目的地はないけど、お腹もすいたし。体を動かせば、多分気分も晴れるさ。

 まだできたばかりの小屋を出て、まずは弱い木漏れ日を味わう。できることなら水浴びでもしたいとこだけど、たしか草原の方向から川が流れてるんだっけ?

 市場とは逆の方向に歩き出す。魚とかいるならどうにか捕れないだろか? でも魚かぁ。狩人の捕ってくきてくれたやつ、あまりおいしくなかったんだよなぁ。

 やがて目的地にたどり着く。ずいぶんと大きな川だ。勢いはそれほどでもないものの、岩の間を、飛沫をあげながら流れていってる。

 思わず感心しながら、近くにある大岩の上へ。そこで伏せて、ぐるりと周りを見渡してみる。サラサラと水音だけがそこにはある。

 ん、なんだあれ。

 遠く、遠く、川べりに大きな緑色が見える。葉っぱとかじゃない。こう、にょろんとしてて、茶色い膜みたいなものがついてて……頭もある……?

 こりゃ大変だと起き上がって駆け出す。思ったよりも距離はなかったみたいで、数秒もあれば倒れている者のそばにたどり着いた。

「ちょっと、生きてる!?」

 見たことない姿だ。クチナシなのかもしれないけど、こんなとこで倒れてたら、そりゃ、心配にもなる。

 目も閉じていて、ぐったり。口元には水の名残があるから、飲んでたんだろう。でも、なんで?

 その答えはすぐに明らかになった。グゥ、とそれはもう大きな音が聞こえたからだ。同時に、ぱちくりと開く目は、こっちを見て、

「お腹すいた」

 と睨み付けた、ように見えた。

「ええと、おはよう。その、ここで何してるの?」

 弱々しく立ち上がる竜は、膜のついた翼を支えに背筋を伸ばすと、

「ギルを、探してるの。いつまで経ってもこないから、探しにきたの」

 それでこういうことに。うん、僕も他人事ではない気がする。

「そっ、か。市場から来たの? 一緒に行く?」

 ギルとかいうのがどんなやつなのかも知らないけど、ここにこの子を置いていくのも問題だろう。

「市場! そこで待ってたの!」

 はぐれたのかどうか知らないけど、とりあえずは小屋に戻って、保存食を分けてあげよう。川で喉を潤してから、さぁ行こう、とシェーシャと名乗る飛竜を導いた。

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