[短編(市場)]あ、行き倒れだ1
いつものように歩く。根っこをよけて、乗り越えて、方向感覚を見失いやすいと言われる樹海での生活は、思わぬ出会いが連続していることを除けば、いい生活ができるかも、と思いながら。
……同居するからには、青いのと、色々と決めないと……あいつはいつ起きてるのかしら。
たまに目線を上げて、市場の方角を確かめて、歩く。それにしても、安い土地なら、とヴィークが勧めたのがこんな辺鄙な場所というのは、騙された気がする。でももとからこんなところに住んでたし、あまり気にはならないけど。
後少しで市場だから、今日の予定を振りかえる。本屋探しと、今日の、あいつの分を含めた食事の用意。
と、何かが見えた気がして立ち止まる。
虫とか鳥とかではない。そもそも、動いてない。
「あんた、生きてる?」
目的地から逸れてそちらに歩くと、木に寄りかかり座る立脚類の姿が。
見たことのない土色の鱗の竜だ。外套をつけていてよく見えないけど、胴体についてるのは、鎧?
ぴくりとも動かず、じっとうなだれている、多分男にじりじりと近づいて、声をかける。
「ねぇ、聞こえてる? ねぇってば」
反応があった。ぴくりと。でもそれだけで。
仕方がないと、持ってきておいた水筒を取り出して、揺らす。チャプチャプという音を聞くなり、それはがばりと視線をあげる。
「あげる」
言い終わるか否か、彼は空色の鋭い視線で水筒を開けると、ひっくり返す勢いでそれを空にしてしまう。同時に荒い呼吸を繰り返し、咳き込む。
「すまん、ありがとう」
そう、ギル・ヴルムと名乗り、彼は礼を言った。
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