[短編(市場)]旅行に行くなら……
「どっかに行きたい」
そう提案したのは頬杖をつくラクリで、湯気のたつスープを目の前に、どこか上の空だ。
「なんだよ、急に。僕のおごりが気にくわないって?」
隣でじろりと睨むリエードは、フライの盛り合わせをちまちまと食べている。
「遠出したいって言ってんの。どっか行ったことのないとこで、本探ししたい」
「なんで本を探すためだけにどっかに行く必要があるのさ。本屋で注文でもすれば、買えなくはないだろ? 遺産みたいに替えが利かないものでもないのに」
限定ものでなければ、刷ればいい本を、どうして労してまで探さないといけないのか。
「それはそうね。でも、慣れたじゃないとこで、気がつくこともあるんじゃないかしら」
だが、存在しても知らないのならば、ないのと同じことである。いくら本のカタログが充実していたとしても、そこに名前のない本は、誰も存在を知り得ないものなのだ。
「はぁ? 何言ってるんだよ。じゃあ、今度、遺産探しの遠征にでもついてくる? 途中で町に寄って、補充とかするし」
でも徒歩なんでしょ、と首をかしげる赤。
「当たり前じゃないか。あの人数で馬車の手配なんていくらかかるのか……」
歩きながらは、読めない。詰まるところそういうことで、私だけ馬車じゃダメかと尋ねるも、それはもう遠征じゃないから好きにしたらいい、と彼は食べるペースを早めた。
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