[短編(オリ)]天涯孤独の転生者
俺は転生者だ。
だが、誰も俺が、前世のそれであることを認識などしてくれない。
何十年も時間が経過しているというわけではない。俺が死んだのは、ほんの五年前で、まだ聞き慣れた貴族の名前も耳に入るし、それに、あの人が婚姻を結んだ、という御触れも、つい先日、掲示板の隅っこに。
……結婚するのか、俺以外のやつと。
遥か遠方、辺境の地に出向いて、俺だ、と伝えても誰も信じるはずがあるまい。こっちでも、母上と父上、兄弟たちの名前を述べても、どこで知ったのだろう、と目を丸くするばかりで、俺は、あくまでこの田舎に産まれた、薄汚い農民の子供なのである。
仮に、契りの言葉を一言一句たがわずに、彼女に進言したとして、茂みで盗み聞きでもしていたのだろうとあしらわれるに決まっている。
それに、それに、転生したなどと、誰が信じるものか。
仮に、この記憶が前世のものではなく、子供の妄想だったと仮定しよう。じゃあどうして、ここまで彼女への想いが募るのだろう? 小さな小さな記事が、俺の胸をひどく痛めつけるのだろう?
ただの、ただの妄想ならば、こうなったりはしない。目の前にいもしない幻影に手を伸ばしてしまう方が、よっぽど現実的だ。
もう彼女には、会えないんだろう。
それを嫌って、転生の魔法なんていう夢物語を研究したが、その結果がこれだ。
その書物は不思議と遺されているが、転生者がいる、なんていう話は聞いたことはない。
仮に、俺が成功させてしまったのだとしたら、それはすごいことだ。世紀の大発見だ。
でも、でも、彼女は、この手には届かない。
いっそのこと忘れてしまえば、そうだ、忘れてしまおう。
姫様、ご結婚、おめでとうございます。
我が魔法で、心より、祝福いたします。
◆◆◆◆
自分の意思で転生じゃーっていう展開あるじゃないですか。
そんなことできるんなら、その世界は、転生者だらけになりますよね。そこに世紀の魔法使いだからできた、とか設定も出てきますが、定期的に天才は生まれるわけですから、大量に出てきてしまいますよ。
さて、ではこの転生の魔法とやらが、不思議と伝えられているが、転生者の存在についての話は、ぷっつりと聞かない、という話はいかがでしょうか。
どうして彼らは転生者である、と言わなかったのか。その才能はなぜ、転生後に活かされなかったのか? 前世を知る遠い地にいる旧知の存在は、何をしているのか?
色々と練ることができそうですねぇ、このネタ。
さて、今日はこの辺で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます