[ネタ]ごく自然なこと

 はい、と手渡されたのは容器であった。空ではなく、なみなみと湯気たつスープに、ごろごろと一口大ではないサイズの食材が照っている。

 受け取ると、彼女は焚き火に戻って、再び容器を受け取って、別の者に渡しに行く。彼女が食事にありつくのは、数分後のことだった。

 待ってましたとか、ナイスタイミングとか、感謝の言葉を彼女に告げる者たちは、一様に笑顔で、言われた当人も、またそうだった。

 しかし腰を落ち着けた彼女に渡されたのは容器でも鍋でもなく、味気のない携帯食料だった。だが料理をよそっていた当番の人も、嫌な顔を見せることもせずに、自然と彼女と会話する。

 彼女は奴隷である、とかそういうのではない。味覚障害があるとかでもない。単に、ごく普通の、当人にとって美味しい食事をしているだけなのだ。

 なんでも、仲間として信頼はしているものの、自分で、信頼できるところで買ったものしか食べたくない、ということだ。もちろん料理も食べられなくはないが、変に気を張ってしまって味がしなくなるし、会話もおぼつかなくなるのだとか。

 初めは変なやつ、なんて考えていたけれど、それ以外はごく普通の人だ。今さらではあるし、もう誰も気にしてはいない。

 今日のは辛いな。香辛料を入れすぎでは?


◆◆◆◆


 時間が経てば腹が減る。しかし空腹を埋める手段について、いろいろなことを思い浮かべるのではないでしょうか。

 献立、ここ数日のバランス、食べたくないもの、とかとか。

 結局は食べないといけないわけですが、近くの人が変わったものを食べていたらどうしましょうか。極端な話、アレルギーで食べられないから、使用していない料理とかですね。

 最近は命に関わるということも知られており、好き嫌いとは別物であるということがしれ渡っているかな、と考えています。


 さて、食事はあくまで例として、普通は、普通は、となにかと、水準を引き上げたりしてませんか? 類義語に、常識とか、当たり前、とかでしょうか。

 自身の生活の水準を引き上げるのはよいことですが、たまたま違う文化に遭遇したときに、あっと驚くのはまだしも、普通とか常識とかで対立、あるいは是正しようとしていませんか?

 それが悪手なものであって、それを正そうというのならばまだしも、ちょっとした違いにこうあるべきだ、と攻撃的になってしまうのって、無駄に疲れませんか?


 自分にとっては、ごく自然で当たり前のことだ。

 そう主張するのはいいでしょう。しかし、それに歩み寄るのは他者であって、自身が踏み込んで揺さぶるものではありません。

 まぁ、嫌らしいやつとかを書くのならば、こういう属性をつけてやれば嫌に思ってもらえるのではないでしょうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る