[短編(市場)]彼岸の迎えに怨霊退散4

 いつもより少ない星々に見下ろされている荒れ地に影を落とす者なく、静かな時間が流れている。耳がいたくなるほどの静寂に、乾いた風がささやかに流れると、砂埃が背を伸ばす。

 と、荒れ地の崖の上、洞窟のさらに上に奇妙なものが現れる。

 どろどろとした、濁った湧水。平坦なそこに広がったそれは、ある程度広がるとぴたりと裾を広げることをやめて、かと思えば砂をかき集めるように山を作り始めた。

 えもいわれぬ音を奏で始めたそれは、やがて首を生やして、裂けめと、ぽっかり空いた穴に球を備えた。夜風を受けながら球を回して瞳のような穴を表に向けると、ぱちくりと瞬きをする。

「なんや、今日は明るいなぁ」

 独り言は、口だろう裂け目から、反響して発せられた。

「祭か? でも、カルのやつから誘いはきとらんしなぁ」

 軽く首をかしげている彼女は、何度か瞳孔を動かすものの、こんな場所では市場の者、一人も見えるはずがない。

「秋の地域で行われる、収穫祭だそうですよ」

 そんな彼女の隣に、いつの間にか正装の立脚類の獣が立っていた。瞳孔をいっぱいに広げているが、やはり彼にも、何も見えない。

「なんやなんや。うまいもんでもあるんかいな。王様も意地悪ぅないか。あたしを差し置いてぇ」

 いかにも楽しそうな声をあげるものの、その表情になんら変化はない。

「まだ浸透はしていないので、露天はあまりないようですよ。商人がふれまわって、一部の人が乗っかってるだけのようです」

 なんやそれ、と興味を失ったらしい彼女。

「この祭のメインは、恐ろしい姿をまとって練り歩くこと、だそうですよ。収穫祭なのに」

 かくいう獣も、怪訝そうに眉を寄せている。

「おお、そうなんか。エストたちもなんか、変な格好しとるんやろなぁ?」

 いかにもおかしそうに笑う。

「行ってみますか? 別にいつもの姿でも問題はないようですし」

 そうかそうか。そう口にすると、彼女の姿はまた溶けてしまう。再び体積を持ち始めたかと思えば、立脚類の姿に。

「まだ夜は、始まったばかりや」

 なんの躊躇いもなく、二人は崖から飛び降りた。


◆◆◆◆


 久しぶりに景色の描写を頑張ってみました。

 この連休は、のこともありますし、情景描写に力を入れれば差別化、強みにできるんでしょうけれどねぇ。

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