[ネタ]なにもんだ、あいつ……!
それはもう、一瞬のことだった。
試合開始のゴングが、わんわんと会場に反響している頃には、一人しか立っていなかった。目蓋に焼き付くにらみ合いの景色がまだ、真新しい像を保っている。
追加のゴングが鳴る。勝敗を告げる放送と共に。
「なんだぁ、あいつ?」
湧き起こる歓声に対して、隣にいた観客が眉を潜めていた。先程までの熱狂とはうってかわり、腕を組んで納得が行かない、といわんばかりだった。
「おいおい、あいつが目玉って言ったろ!」
さらにその隣と彼は、知り合いらしかった。そちらはチケットをくしゃくしゃにしながら興奮して立ち上がって歓声を送っていた。
なんでも、負け知らずの戦士だという。
金のかかった戦いがあればそこへと現れ、文字通り目にも止まらぬ早さで決着をつける奇妙な外套もまとわない男。武器も持たず、あるのは気休め程度の、関節を守るための装備のみ。
何が起こっているのか? それは誰もが思う疑問ではあるが、その神業を間近に見れて、今の歓声が上がっているのだ。
技を競い会うこの場所に現れた、イレギュラー。動いていたのは入出場のときのみ。いっそのこと清々しいのだろう。貴族の姿も、わりと多いようだし。
さて、ここにあいつみたいなのが来た、ということは、しばらくはまた現れないことだろう。
つまり、あれと戦わずに済む。エントリーするなら、今だろう。
◆◆◆◆
強敵の登場シーンとか、はたまた主人公にスポットライトを当てる導入に便利な「なにもんだあいつ」でした。
こうすることでそのキャラの、客観的価値を説明する機会ができるので、便利です。例えば闘技場で展開するなら、知名度は低いが主人公たちにぶつけたいやつがいたとしましょう。予選でこのシーンをつけるだけで、説明するチャンスができますね?
あるいは怪異に遭遇して逃げている途中、助けられた。すると助けた誰かが何者であるか、を確認すれば怪異のことも含めて説明する機会になります。
一種のメリハリですよね。シーンが流れて、いきなり出てきたキャラの説明を永遠とするよりも、なぜ注目するのか、彼彼女にまつわる情報は何なのか? 自然と表現できるわけですね。
人と会うたびに情報を覗きまくるストーカーを用意するよりも、自然な流れですよね。逆に日常パートにこれを使うのは難しいですけれど。
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