[短編(七日)]自由を冠せど、一択のみ

 うつらうつらと舟をこぐ。目を閉じじっと、直立して、時折くる冷房の風に羽毛を揺らされても、彼女は微動だにしない。

 屋内に放し飼いされているらしい猛禽は、日が傾き始める頃までは、そうしていた。だが誰も戻らず、しんと静まり返る空間で、目覚める。

 と、止まり木から飛び降りて、ある一室へ。年頃の女子の私室であることが予想されるその場所にも止まり木があるが、そこに目もくれず、棚を見上げた。

 詰め込まれた本を背後に、ちょこんと座っているものが五つ。色褪せた、いかにも固そうなまるっこい人形だ。その額、あるいは頭頂部か、後頭部には細長い穴があって、痛がる様子もなく正面の、勉強机を見つめている。

 猛禽は、真ん中のものをじっと見上げて、ぴょんと飛び上がったかと思えば、翼を広げて脚をつきだした。

 ガリ、と爪がひっかかり、目的のものは引っ張られて棚からぐらりとバランスを失い、わしづかみにされることなく絨毯に落ちてしまう。ジャラジャラと中から音が。

 改めて床に着地して翼を畳むと、猛禽は人形を起こして、じっと睨み付けた。

「みればみるほど、似てないねぇ……」

 それは、色だけを見れば彼女そっくりだった。

 だが二頭身のむっくり人形に、いくらしゅっとした嘴をつけても、歪で、りりしさなどは感じられない。だがその色合いは、間違いなく見つめている彼女だ。

「……時代は変わったもんだねぇ」

 夏休みの工作なんてものは、いや、そもそも学校なんてものは、最低限の教養を得るためのもので、こんなものは作らなかった。

 手先はさほど器用ではない、猛禽の認めた彼女は、工作なんて普段はしない。それでも課題として出さないといけないから、と万年、貯金箱を作ったのだった。

 もちろん親にも呆れられたものだが、彼女を模したものは、その第一弾であった。

 一応、作る度にひび割れや、造形が進化していったが、所詮は同じ課題で、その分野の成績は低め。それでもめげずに作るのは、得意ではないからこそ、作り方の分かっているものでやろうとするのだろう。

「ただいまー」

 と、玄関から幼い声が。

「おかえり」

 猛禽は棚を仰いだが、鞄を置きに来た彼女に戻してくれるよう頼み込んだ。


◆◆◆◆


 もう10月になりますが、夏休みの工作とかって、どんなもの作りました?

 貯金箱、なんてよくありますよね。誰もが一度は作ったと思うのですが。

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