[短編(市場)]ある狩人

 ザザザッ、ザザザッと背の低い草を掻き分けていく者が、獲物を仕留めた。クチナシの喉に、寸分の狂いなく食らいつき、気道を圧迫していく。

 どれだけ暴れようとも、狩人は逃がさぬ、と顎に力を込める。ガサッガサガサッ。そんな最期のあがきも功を奏することなく、動きを止めてしまう。

「ごくろーさん」

 狩人を追って現れるのは、弓に矢をつがえたままの人間だ。彼が見下ろすのは四脚類の獣。

「弓でバスっと決めちゃえよ。そんなんじゃ、俺が死んだら生きてけねぇぞ?」

 そうできたらいいんだけど、と苦笑いする人間は、弓をしまって早速獲物を捌きにかかる。魔力乖離を起こす前に加工してしまわなくては、生活ができない。

「にしてもよぅ、動かない的なりで練習しろよ。それにも当たらないのに狩りなんてできるはずないだろ?」

 手早く血抜きの下準備を終えた彼にそう告げるが、当人は緊張感もなく別にいいじゃないか、と笑う。

「おまえがいるから、生活できてる。どっちか先に死んだら、そんときはそんときだろ? おまえより俺が先に死んだら、どうするよ? 加工も売りに出すのもできないだろ?」

 確かに、と尻尾がふわりと揺れる。

「飯は適当に食ってりゃいいけど、寝床を作ったりするのはおまえらの得意分野だしなぁ」

 得意不得意くらいあってもいいか。獣が鼻を利かせてみるも、立ち込めているのは血臭ばかりだ。

「そーそ。俺は狩りが苦手で、おまえは狩りが得意。商売で稼ぐのは苦手だから、俺がやる。それでいいじゃねぇか」

 ようやく獲物を切り分け始めた人間は獣に、売り物にならないものを投げて寄越す。獣は臭いを確かめてからむしゃりと口にした。


◆◆◆◆


 猟犬っているじゃないですか。こういう創作物だと、話している姿を妄想できるのっていいですよね。話さずとも態度で感情表現するのも、たまりませんが。


 さて、市場では喋るか、コミュニケーションがとれるか、が同族たるかの一つの区分です。共通の言語でやり取りできるだけでも、同じコミュニティである、という一種の本能なのでしょね。

 で、ここで思ったのですが、この世界にペットという文化は存在しうるのでしょうか? 外見こそ違えど、話せると隣人であるという先入観があるために、非人道的だということで、広まらないのでしょうか?


 どうなのでしょう? ペットという概念が生まれたきっかけを調べてみると、何か分かるかもしれませんね。

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