[短編(オリ)]濃口調味料2

 それはもう、愉快でたまらないといった笑い声が、数分前は平和を象徴していた場所に響き渡った。

 今はどうなっているかというと、アスファルトとは割れて、建物には縦方向のヒビが走り、通行人は倒れて、車はひしゃげていた。

「くそ! ワルダ組の幹部、破壊の慟哭デストロイめ!」

 声の主の前に倒れている二人のうち一人が腕をついて上半身を起こす。紹介ありがとう、と笑いを再開すると、もう一人が起き上がる。

「……っ! なんであたしが巻き込まれなきゃなんないの! 正義のヒーローが、一般市民巻き込むなって!」

 じろりと隣を見下ろすが、君は怪しすぎるんだ、と彼も立ち上がる。

「あれ、もしかしてヒーロー君の意中の人?」

 すると高笑いを止めて二人を見下ろした幹部ははてなと首をかしげる。そんなわけないだろ、と相手を睨むものの、それを遮るのはもう一人。

「は? 何言ってんの!? こいつはね、ストーカー! ことあるごとに私をあんたらの仲間と言われていい迷惑してるんだけど!?」

 ぐいぐいと近づいていく彼女に、視界に入ってきた彼女から視線を背けるヒーロー。

「あんたらがなんもしなけりゃ! こいつに付きまとわれることもないんですけどね!?」

 ずいと指を突きつけられ、幹部はたじろくこともなくにやけ面を、ヒーローに向けている。くるりと市民が振り向けば、彼の視線は泳ぐ泳ぐ。

「いやー、破壊の慟哭デストロイともいえど、恋愛感情を壊すのは苦手のもんでねぇ。いっそのこと、ここで告白しないかい? ヒーロー君?」

 そして追い討ちをかければ紅潮していくヒーロー。すると、なんとかいいなさいよ、と彼女が近づくと、彼は逃げ出す。当然追いかけるのは女性のみで、幹部は幹部でにやけながらその行く末を見守る。

「いやー、若いなぁ」


◆◆◆◆


 久しぶりの濃口調味料ですが、前回は極端に濃い性格の主人公でした。では濃口要素を敵に配分しようとしたとき、どうしたらインパクトを強くできるでしょうか。

 先述の場合は、デストロイさんは破壊能力を持っているにも関わらず、ロマンチストっぽいってところでしょうか。無理矢理考えましたけどね。


 今、魔王討伐にてユーラに次ぐ三柱が登場しているのですが、印象を残そうと、趣向を持たせようとしています。

 ちょっと無理があるかなぁ、とか思いながら描いていますが、さてどう受け止められるのか。彼の登場は029あたりになります。

 さて、どう表現されているのか、お楽しみに。

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