[短編(市場)]夏の味1

 夏と呼ばれる地域にて、砂浜に胡座をかく影がひとつ。

 ぎらぎらと輝く白い光を、鏡のように弾く白の衣に身を包む、人相の悪い、立脚類の白い竜だった。具体的には、金の瞳は鱗類特有の瞳孔がぎょろりと動くし、加えて常に露出している牙は、まさしく獲物を探している狩人を思わせる。

 武器を脇に置き、じりじりと照りつける日差しなどなんのその、息を乱すこと無く険しい顔をしている。

 時間ばかりが過ぎる。修行でもしているのか、と思わせる佇まいに、散歩に来ていたらしい通行人もいぶかしむ。

 やがて陽も若干弱まった頃、彼に歩み寄る二つの影。

「グレイズも来たらよかったのに」

 同じく白い衣をまとう彼らは、世界樹の王。

「食べます、これ?」

 大きな縞模様の果実を抱える立脚類の獣と、人間が視界に割り込むようにして覗き込む。すると微動だにしなかった瞳がわずかに動き、遅かったな、と。

「そりゃ、暑かったしね」

 獣が一方を見やれば、

「お昼をご馳走になって、ゆっくりとしてました」

 人間も悪びれる様子もなくにっこりと。

 悪態をつくこともなく、竜は果物を砂の真ん中に置くように言う。獣はそれに従って距離をとる。

 すると果物はみずみずしい赤い断面を晒しながら六つに切れて、ころんと転がった。だがひとつ、勢い余ってぺたり倒れ、砂が付着する。

 だがそれを率先して拾い上げるのも竜で、持ち上げた彼はじろりとそれを睨む。すると中空にぷかぷかと浮かぶ水が生まれたかと思えば、音をたてて砂浜へと落下する。

 砂の落ちた果物に、牙をたてる。だがシャクシャクとほぐれていく果肉と、じわりと溢れてくる水気に、彼は目を細めた。

「果物なのか、これは」

 牙を噛み合わせ、もごもごと口を動かす。

「スイカ、と言うそうですよ。なんでも、特に暑くなる時期においしくなるとか」

 遠慮がちにいただくのは人間で、砂のついていないものを拾い上げていた。

「僕は好きだなぁ」

 一方、口の周りを鮮やかな赤に濡らしている獣に、竜は一言。

「あとで貴様を洗ってやらねばな」

 それはやめてよ、と獣は言うが、服を汚すなよ、と竜は無視する。

 水平線に沈む太陽が、大きく揺らいでいた。


◆◆◆◆


 スイカ、好きですか? 私は苦手です。

 なんといいますか、水気の中にある青い匂いが苦手なんですよね。キュウリも同じく。

 あの特有の匂い、なんなんでしょうねぇ。

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