[短編(オリ)]ヒトミサマ
神様、神様、お越しください。
ここにあなたの贄がおりますゆえ。
神様、神様、お越しください。
魂見送る運賃をお支払します。
神様、神様、ヒトミサマ。
贄はここに、厄災払う、ヒトミサマ。
サラサラと白無垢が音を立てる。ス、ス、と足音は息を潜めて、敷かれた石の上にも関わらず、静かに、静かに、進んでいく。
彼女を運んできたのであろう御輿は、これもまたどこかへと立ち去る。ザッザッとこちらは足音など気にせずに、草むらを掻き分けてどこかへと。
女性がたどり着いたのは、ひとつの祠。古びていて、苔むしていて、石で作られたのだろうそこの前に佇むと、無垢を汚さぬよう気を付けながら、祠に陶器をひとつ置く。
じっと見下ろす。震える瞳と、のぞく握り拳。
ゆっくりと立ち上がる。すると彼女は目を丸くする。
「おう、おう。また来たんか」
それもそのはず、祠の後ろには得たいの知れないものがいるのだから。
「ヒトミサマ、ヒトミサマて、しつこいやつらじゃ。勝手に澄んだ目ん玉をくりぬく神などと」
だがどういった姿をしているのか、明確には表現しがい。
「さらに前じゃと、人身食らう神などと勝手にぬかしよってからに。人肉などに興味はあらん」
なぜなら、それは形を持っていなかったからだ。水のように、ゆらゆらと光を反射するばかりの、塊にしか見えない。
「とはいえ、おまえさんを生かして帰せば、命はない。ほれ、ついてこい。取っては食わん」
するするとそれは動き始めた。しばらく立ち尽くす女性だったが、迷わんよう着いてこい、と促され、汚れなど気にせずに追いかけた。
◆◆◆◆
よく時間と共に、名前の意味が変化してしまった超越的存在ってありますよね。今回の礼だとヒトミ(瞳、人身)サマというふうに。
それは伝承の風化と同じものと見ることはできますが、もしかしたら意図的に消されたものなのかもしれません。当の本人にとっては、いい迷惑なのでしょうけれどね。
ところで、こういった転じて性質が変わってしまうっていう概念というか、トリックといいますか。こういうのを思い付く切っ掛けってなんでもありなんですよね。
似た英単語の誤認によって意味が変わってしまったとか、文字がかすれて誤読させたとか、地図の向きがめちゃくちゃで書かれた地名のせいで名前がちぐはぐになったりとか。
知識、というよりかは雑学なんてものも、こういったものを作る上では必要になるんでしょうねぇ。物語に落とし込むのは非常に難しいものですけれどね。
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