[短編(市場)]第758話 あなたは、誰だ

 無秩序に造られていく建物に、それではダメだと初めに叫ばれて、はや数ヶ月。世界樹からの神託を受けて王となった彼らは、荒地に突如現れたという洞窟に訪れていた。

 先頭に立つのは、槍を携えた人間。後ろに立つのは四脚類の大型の獣と、小型の竜だった。

 洞窟は深く、深く地底まで続いていた。だが不思議と、奈落の底へと通じている絶壁があるわけでもなく、緩やかに、緩やかに、歩き続けるには疲れる程度の穴が続いている。

 お互いの存在を確認しながら、ぼんやりと光る岩に従って進んでいく。空気が、どんどんと重くなるのを感じながら。

 やがてたどり着いたのは、行き止まり。肩をすくめる人間が、他にも道はなかったかと後ろの二人に問いかければ、なかったと返る。

 何もない。ただ光る岩と通路のある洞窟。一夜にしてできるはずのないここに、はてなと首をかしげた人間は獣の王に歩みより、身に付けていた荷物から道具を取り出す。

 そして光る岩を、欠片でも持ち帰ろうと、手にかけた。

「誰や」

 ともすれば、地響きに似た音が鳴る。

「あんたらは、誰や。あたしゃ、誰や」

 もちろん人間はびくりとして、道具を取りこぼす。慌ててそれを拾い上げてあたりの様子を窺うが、これといった変化は、音以外にない。

 竜が臆せず、問いかける。いるならば姿を現せと。

「なんや、あんたら。人の寝床に押しよってからに」

 彼らのことを認識しているらしい何者かは現れない。おそらく女性だろう声は、続ける。

「……いややわ、めんどくさい。あたしは寝てるんや。このまま、あんたらを生き埋めにすることだってできるけど、ええんか?」

 帰ろう、と獣が提案する。眉を寄せる人間だったが、竜もその方がいい、と尻尾で人の背中を押し始める。

 だが何の成果もないのはいかがなものか、と人間は、彼女だろうものに名前を尋ねた。

「……名前やって……? 知らんわ、そんなもの」

 気はすんだろう、と獣が人間の服を咥えて、ずるずると引っ張る。竜はぺこりと一礼してから、彼らを追いかけた。

「名前……なんやっけな」

 誰もいなくなった闇の中で、ぽつりと。


◆◆◆◆


 市場の歴代王様の設定ってないんですよね。考えてないので。少なくともテレアが住み着いて居眠りし始めたタイミングでは誰もおらず、作中の時代の、ヴィークの祖父母がテラーを捨てた時期がどのあたりの時代か、が争点になると思われます。

 続編を書くとしたら歴史編になるだろうなぁ、とか思いつつ、書く予定はありません。あるとすれば勇者を名乗る少年が人相が悪いからグレイズ様に挑むような話だろうと思われます。

 けど既存だけで既に20いるわけですから、書くのは難しいでしょうねぇ。

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