[短編(ネタ)]無限と99……って違うんですか?
手にいれたものをどうやって持ち運ぶのか。それは人々、いや生物の長年の課題だった。
結果、あるものは運びたいものごとに保存方法を研究し、またあるものは品質を落とさない運搬手段を編み出した。
今でこそ運搬の基本は車輪を使ったものが主流であるが、ここに革命がもたされようとしていた。
「……袋ですね」
研究成果の前置きが終わり、いざお披露目となった成果に対する第一声は、それだった。
富豪たちの目の前にあるのは、腰につけて持ち運べる程度の、文字通りのものだった。中にはなにも入っていないようて、ぐったりとしている。
「いやいや、袋は袋でも、こちらは99の袋! 99個までならなんでも入るんですよこれ!」
物は試し、実証するために観衆の一人を呼ぶと、その袋に入れるよう、研究者は果物を差し出した。言われるがまま富豪は袋を開いて、落とすようにして袋に入れた。だが不思議なことに、音も立てずに果物は袋の中へと落ちてしまう。見た目も変わらずだ。
ほらほら、と次から次へと果物を手渡す研究者。そうとなれば勢いのままやることは一つだけだ。
やがて研究者が百個目だという果物を手渡すと、それが袋に落とされる。するとどうだろう、確かに中に入ったが、ゴン、と重い音が響き渡った。
「この通り、99個までしか入らないんです。取り出すときは、普段と同じように手を入れて、取り出してください」
説明しながら開きぱなしの口に手をおもむろに入れて、少しして取り出せば、そこにはどこかで入れた果物がある。
と、聴衆の一人が手をあげた。
「99というのは、果物限定なのか? なら使い道がないだろう」
もっともな質問に頷く者が多数。いえいえ、とにっこり笑う研究者は、次の袋を取り出した。
「例えばこちら、ゴマですね。大体千粒入ってます。こちらを入れると……」
まるで塩が入っているかのような形状となる。
「はたまた、こちらの壺なんてものも」
どこから調達したのか、立派な壺を飲み込むと、袋はいつもの大きさに。
「このように、99という単位でものを収納して持ち運べます」
続けて壺を取り出して魅せると、歓声が上がるのは当然のことだった。
「では塩は運べないのか、と言いますと、ご安心ください。このように容器に入れてしまえば……」
瓶入りの調味料を入れれば、それは消える。
「容器が99個になるまで入れられます。さぁ、資金のご提供をお願い致します!」
ここまで実演されては、疑う余地はない。誰もがこぞって持っていた金を数え始め、回されていた名簿にその額を書き込んでいく。
一礼して立ち去った研究者は、これから忙しくなるぞ、と笑みを深くした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます