[短編(市場)]こねて、発酵させて

 スナックを片手に、通りかかった道。赤い竜ははたと立ち止まる。

 料理の実演販売をしている飲食店だ。ガラスの向こうの、明るい店内で、きめ細かな粉に少しずつ水を注ぎながら、手を世話しなく動かしている。

 ばらばらだったはずの粒子は、まるで粘土のように形を持ち始めて、こねれば、こねるほど、一体化していく。

 なにあれ。通行人の彼女の感想はそれだけだったが、人通りも少ないこともあって、立ち止まった。

 一心不乱に、混ぜて、こねて。ベタベタとしていそうだった表面は、次第に丸くなっていく。丸く、丸く、一つのボールのように。

 やがて作業を終えたらしい店員は、粉を固めたものを置いて、どこかへと行ってしまう。何か忘れ物でもあったのかと竜は首をかしげるが、戻ってくる気配はなかった。

 実演とやらは終わったのだろう。そう結論付けて歩きだそうとしたときのこと、視界の隅にある白い塊をまじまじと眺める。

「……こんな大きさだったかしら?」

 一回りだけ、大きくなっているような気がした。

 周りにあるものと、塊の距離を目で測り彼女はじっと待ち続けた。結論、粉の塊は次第に体積を増していた。

 魔法か何かかしら、と深紅が塊を眺める。やがて倍くらいの直径になった頃、店員が奥から現れた。彼は居座り続けている彼女を認め、軽く手を挙げたあと、作業を再開する。

 膨らんだ粉の塊を、手頃な大きさだけとって、ちぎる。手のひらサイズのそれをまた転がして、真ん丸になったら近くの箱へ。ちぎっては、転がして、箱へ。

 塊はすべて小さくなって、奥へと運ばれる。一向に戻ってこない店員と粉の塊に、なんだったのかしら、と首をかしげる。

 この少しあと、実演していた店員が彼女の前に現れ、あつあつの発酵食品を手渡すのだった。


◆◆◆◆


 なんでパンの話になったかって? 特に理由はないです。


 あえて言うなら、魔王討伐を終えたら、本雑記含めて、また休載期間に入ろうかなー、と思っただけです。その間に次のネタをこねたり、発酵のための勉強をしたりとかの期間をしっかりと確保するのはどうだろうなぁ、と。

 なんというかですね、アウトプットしかしてないなぁ、と。

 こういうのってインプットが大事、ってよく言われるじゃないですか。でも限られ過ぎた時間に課せられたノルマがある場合、どうしてもインプットがおろそかになってしまいます。

 いっそのこと自営業するか、なんて考えが頭をよぎりますが、怠惰に引かれて落ちるばかり。息が詰まりますねぇ。

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