[短編(七日)]ひな祭りだから
続けて口にした我が家の神は、居間に立ててある止まり木の上で、それはもううずうずとしながら目を輝かせていた。
日向にはとびっきりのお祝いをしよう。
まるでかわいい孫のために押し掛けてきた祖父母が、トラックに雛壇を積んでやってくるような提案。
「万芽様、大変、申し上げにくいのですが」
これをどうにかいさめるのも、家長としての勤めなのだが、神は日向のことになると、そうそう首を縦には振ってくれない。
「怪異を払う仕事もめっきりと減った今、万芽様のおっしゃるような余裕は我が家にはありません。どうか、考え直していただけませんか」
その昔、この神は怪異の一柱、と言っていいのかはわからないが、生きている魂を食らう怪異だったらしい。
ではなぜこの家庭に住み着いているのかと言えば、この家系に産まれた彼菜という少女に惚れ込んだらしい。しかし怪異と人が結ばれることなどあるはずもなく、彼女はこれまでの行いを悔いて、家系に憑く神へと転じたらしい。
「あぁ、この家も落ちぶれたもんだねぇ。あぁ、守ってきた私の立場がないじゃないか、よよよ……」
顔を片翼で隠しつつ、芝居がかった嘆きを訴える神は、しかしこの家計簿の読み方を知っているのだろうかと言いたくなってしまう。
もちろん、日向は愛しの愛娘。今という瞬間が永遠に続くはずもないのだから、こういう記念日は大切にしたい。
この狭いアパートに、雛壇を置いて、一つずつ押し入れから出して、懐かしい思いに浸りたい。けどできるなら、もう、予定はしているだろう。
「……実家に、行きましょうか? そこでなら、どうにかなるかもしれません」
するとどうだろう。不意に口をついた提案に彼女はいいねぇいいねぇ、と揺れ始めた。交渉上手というか、強引だが、まぎれもなくこの猛禽は我が家の守り神。
日向も、大きな病におかされることなく元気だし、いずれは危険な仕事を継ぐことになる。今いっぱいの、できることをするのが、一番の幸せなのかもしれない。
◆◆◆◆
と、いうことでひな祭りですね。何にもありませんけれど。こういう行事でしたっけ?
ということで、万芽の溺愛はすさまじいんだろうなぁと。焼き鳥大好きな貧乏性なくせに、やることやってるんですからまぁ、強く出ますよね。
いずれは彼菜の生まれ変わりである日向といちゃこらさせたい気もしますが、それはいつになるのやら。
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