[短編(オリ)]人を象る、あらざる者(後編)

※暴力表現あり


「カット、コピー、グラビトン」

 大きな影は呟いた。するとロープは切断され、断面がぷかぷかと浮かび始める。

 そのまま、パカパカと歩き始める馬と男女一名。影はむふー、と満足げに鼻から息を吐くと、四個の目でじっと彼らを眺めながら、手首のない手で懐にいる少女の髪をいじくる。

 と、馬上の女が振り向いて叫んだ。くるりと振り返った彼らは武器を取り出して立体的な影に向ける。

「死ねぇ!」

 怒り形相と共に、矢が放たれる。

「ストップ、ブレイク」

 目にも止まらぬそれは、しかし中空で止まり、木屑となって崩れ落ちた。驚きに声をあげる女に対し、男は片手に手綱を、空いた手にナイフを持ち、不安定な体勢なままそれを投げる。

 まっすぐに飛んだそれは、

「ストップ、モディファイ」

 またもや影にたどり着く前に停止する。今度はばらけるどころか、ぐにゃりと歪み金属の球と、木の柄だけになってしまった。

 おお、と興味深そうに目を丸くした化け物の肩に向かって次の矢が飛べば、ドス、と突き刺さる。一矢報いた、と言わんばかりの女の満面の笑みが、みるみるうちに青ざめる。

 矢はたしかに、深く刺さっている。だが痛みを感じていないかのように首をもたげた影は、二対の視線を改めて男女に向ける。

 いよいよ間近に迫った化け物に、急旋回を命じる男。次いで、あいつを狙え、と少女を指差した。

「なんでよ! 持ち帰らないと金にならないでしょ!?」

「俺たちがあの魔物に殺されるよかマシだ!」

 また向かってくる馬たち。ボウガンには矢が装填されていて、静かに影の懐に向けている。

「ウォール、フォワード」

 バシュ、と矢が前進するも、次はメキメキと盛り上がってできた土に阻まれる。それは影の目の前から現れ、波打つように馬たちの方へと、移動するように隆起する。

 まもなく、馬と、男女が飛んで、地面に叩きつけられて、動かなくなった。

「おまえよぅー、魔物のくせに、やり返さないわけ?」

 四つ目の影のため息。

「魔物かぁ。そっかぁ、俺、魔物かぁ」

 むふー。

「いやな、こう見えて、人間だったわけよ。信じられないだろう……いや、人間の魔物がいるなら、魔物の人間がいても、おかしくはないかぁ」

 のんびりとしている影がゆらりと手を伸ばして、わしわしとその頭を撫でる。

「奴隷だけは、いやなんだろう? じゃ、このまま出ていこう。おまえは、俺が連れてる人間で、俺は、おまえが連れてる魔物ってことで」

 一見すると意味不明な言葉だが、少女は特に反応を示さず、風と共に消えた影を探すこともせずに、歩いていた道を進み始めた。


◆◆◆◆


 いつしかの「転生賢者と無力な魔物」(このタイトル書いたっけ)の試作を書いてみました。

 ちょっと動機が弱いですね。もっと奔放なものにしたい感じが……天球以上にフリーダムにしたいですね。

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