[短編(市場)]今日もどこかで事故はある

 それはそれは、大きな音があたりに響きわたる。耳を塞ごうとも、肉体の鼓動をかき消さんといわんばかりの轟音だ。

 そうとなれば、注がれるのは大量の視線だ。何が起こったのか、はたまた自らに関係があるのか、要救助者が、そこにいるのかを確かめるために。

 市民が目にしたのは、停留所から出たばかりの馬車が、これまた戻ってきた馬車と衝突したようだった。クチナシの馬たちは互いの存在に気づいてよけたようだが、彼らよりも幅のある馬車は、幅を見誤ってほぼ正面衝突だ。

 そうなれば、一番危険なのは誰かといえば、屋外で手綱を執る御者だろう。

 助けてくれ、と馬車の間に脚を挟まれたらしい一方の御者。おまえがぶつかったんだろう、と顔を赤くするもう一方も、横転した馬車の下敷きに。

 事故が起これば、率先して動くのが騎士。近くにいたのだろう彼らは、できつつある野次馬を掻き分けて現場の指揮を執り始める。

「おー、珍しい」

 先頭の野次馬の呟きなんて気に止めるはずがない。騎士達が、半壊の馬車から次々に乗客を下ろし、避難するように伝えていく。残るは御者二人だけとなったが、ここからが問題であった。

 馬車をどかさねば二人とも助けられない。しかし、彼らの負傷は、元気でこそあるものの、後に助けた方の肉体に、障害が起きてもおかしくないものだったからだ。

 どうするか決めあぐねる彼らに、一声。物の群れから現れるのは、装いがよいとは言えない人間が一人。

「治療が必要そうっすね」

 騎士なら知らない者はいない。鳥の巣頭の、人間であって人間ではない存在に、指揮していた騎士は大きく礼を叫ぶ。

「礼なんかより、さっさと助けるんっしょ? 簡単な手当てから始めるんで、救出を急いで」

 そこから二人の御者はいがみあいつつも、後遺症もなく救出されたそうな。


◆◆◆◆


 ファンタジー特有の事故ってなんでしょうか? 魔法事故が取り上げられるエピソードはままありますが、真剣に事故というものが考えられることってないのではないでしょうか?


 事故が取り上げられるとき、それって多くは取り返しのつかない損害として過去が描かれます。脚がないとか、親が巻き込まれてー、とか。

 しかし、それはイベントとして、エピソードに大きい何かをもたらせるように、書けてはいるのでしょうか? 単純に事故でできなくなったことを、できるようになって、克服してハッピーエンドだけでは、物語に飢えている方は満足できないことでしょう。

 そうなると、事故ってかなり難しいイベントなんですよね。失ったから? できないから? だから君はどうするの? だからあなたはどうしたかったの? 読者としては、どう盛り上がっていくのか、とても気になるところですね。

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