[短編(混合)]タスクは時を選ばず

 ペンが置かれた。ガン、と強い力で叩きつけられたそれは、しかしそっと手がどけられた。

「終わっ……た」

 長いため息をつくのは椅子に座り、机に向かっていた亜人。土を思わせる鱗に起毛の服を着込み、暖房のききの弱い部屋の隅で、積まれた紙から視線を逸らしている。

 時計を見やれば、夕方を示し、その手前にはいつの間にか置かれていた、ラップで蓋がされた皿がある。大儀そうに立ち上がった彼はいかにも冷めているだろうそれを拾い上げると、床を軋ませながら部屋を出た。

 ギル、と書かれたプレートのかかる扉から出ると、ぶるりと身体を震わせる。床暖房が欲しいな、と呟くが、暗い廊下には誰もいない。

 右手に歩き出して間もなく、居間に出る。そこでは情けなくひっくりかえっているケダモノの姿がある。コウモリのような皮膜の翼を持ちながらも、その身を覆うのは若葉色の甲殻や鱗。畳を痛めるだろう太く鋭い鉤爪のそなわる脚に、すらりと伸びた尻尾。そんな巨体が部屋の真ん中に。

 決して寝ているわけではないらしく、金色の瞳がぱちくり、ぱちくりと虚空を見つめる。

「シェーシャ、寝るならベッドで寝ろ。杉嵩に刺されるぞ」

 すると無言で、勢いをつけてうつ伏せになって立ち上がる。それはやだ、と短く呟く。それもそのはず、彼らドラゴンたちが思うままに寝ていると、邪魔だぞ、と容赦なく刀を抜き放ち、脅してくるのだから。

「で、やつらはどこだ? 三が日はグダグダしてるんだろう?」

 あっちだよ、と視線の先には一枚のふすま。開いてみれば、赤と青が炬燵の同じ面で、仲良く眠っていた。杉嵩の姿は見えない。

「こいつらは気づいたら寝てやがるな……まだ夕方だってのに」

 空いている場所にギルが座り込むと、いそいそとシェーシャはその後ろの空間で丸くなる。

「これは誰が持ってきてくれたんだ?」

 皿を置いて、ラップをはがす。

「杉嵩だよ。部屋にこもってるんだろうって」

 まじか、と彼は炬燵の真ん中に立ててある割り箸を手にとって、断食を止めた。


◆◆◆◆


 ギルは仕事を持ち帰ってそう……というお話でした。


 しかし、彼らが一ヶ所で過ごしている、というのは、あまり考えられませんね。全員が自由気まますぎるので、シェアハウスなんてのも無理でしょう。

 そもそも、ラクリさんとリエード君の生活費、どうやって工面するのか。ギルは傭兵をしていたくらいに生活力はあるので仕事は見つけていそうです。

 シェーシャは働いてないなぁ。彼女ができることってなんでしょう。永遠の子どもだからなぁ……なんて。

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