[日記]冷気にあてられて

 温かな布団から、唯一はみ出すのは頭部のみ。どんどんと冷えてくる頭に対して、ぽかぽかと汗ばんでくる身体。不思議と目覚めぬまま、気がつけば弱い朝日が差し込んでいる。

 朝食を終えて、いつもの時間。バッグを背負い、あれもこれもと装備を整えて手を伸ばした矢先、氷でも掴んでいるのではないかと思わせるのは、外へと通じるドアノブ。

 重たい一撃を受けて動きを止めてしまったが、一瞬のこと。扉を開いて、戸締まりをして、鍵を確認して、歩き出す。

 寒い。水のなかに沈むのとは、また違う冷たさ。同じ流体でも、常に入れ替わり立ち替わり熱を奪ってくるのだから、こちらの方がたちが悪い。手袋も、靴下も、なんならコートも、体温の延命のための皮に過ぎない。

 ちゃんとした防寒グッズを揃えてしまえば、それこそサムイサムイ病とはおさらばできることだろう。しかし、私としては寒いよりも着こんで暑い方が身体に堪える。

 簡単な話、汗でべったり、脱ぐにも一苦労。加えて建物に入れば、手のひらを返す空気たち。それらと付き合いきれないのだ。

 ならば、多少の寒さを感じつつ、体温を上げる方法の方が合理的に思える。ホットドリンクなり、運動なり、建物で休むなり。

 鼻腔が乾く。喉を枯らせる寒気を吸い込み、ハァ、と肺で温めた空気を吐き出す。だが視界には何事もなく、同じ景色が続く。

 代わりに、口をおおうマスクの内側が湿る。

 マスクをつまんで、持ち上げて、鼻の頭にぺたりと布の感触。

 うん、暖かくなった。

 そういえば、まだサムイサムイ病をひどくさせるような風にあたった記憶がない。ひえー、と思いながら、末端を庇いながら早足になる、あれだ。

 とはいっても、まだ冬は始まったばかり。季節の境界なんてものは常に曖昧で、私の衣服事情を苦しめる。

 もっと安定した気候なら、どんな生活をするのだろう?

 巨木をいただく世界をぐるぐると歩きながら、足の向かう先は、いつもの場所である。


◆◆◆◆


 白い息を、今年はなかなか見れませんね。


 マスクをしていると水蒸気がキャッチされてしまうのでしょうか、全然見ないです。見れたから何、ということはありませんが、誰かの口元でそれが見えると、なんだかほっこりしませんか?

 冬が来たなぁって、デコレーションに向かって延びていく白いもやを眺めて。

 もちろん、マスクを外せば見れるものです。しかしそれは自分のものであって、見ず知らずの誰かのものではない。

 なんだか、ものたりませんねぇ。

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