[創作論]今がおいしいこの味覚

「もう少し、丁寧に味わえ」

 野菜の欠片ばかりの食べこぼしに汚れたテーブルの反対側には、丁寧に一口サイズに切り分けられた焼いた肉と付け合わせの野菜。こちらには、強いて挙げるなら跳ねた油くらいしかない。

 じろりとナイフとフォークを持ち目を細めるのはグレイズ。対するのはふわりと尻尾を振るエプルだ。

「いや、食べるのを楽しむのはいい。いいが、お前の故郷ではこうして食うのが当たり前なのか?」

 ふるふると横に振られる頭に、汚して店員に迷惑をかけるもんじゃない、と一口。対して、顎をあげて目を閉じ、考えるような素振りをしたかと思うと、斑竜は口のつけていない、皮の硬い野菜に牙を突き立てた。

「おい、言った側からそれか。怒るぞ」

 トーンを落とそうが、側近は強靭な顎でそれを砕く。破片が飛び散り、口内に入ったものをもごもごと咀嚼し始める。

「……エプル?」

 さらに一トーン。

 不服そうなエプルはじぃと主の眼差しを見返す。

「……今が一番おいしいものは、そのまま味わうのが一番、か。それでも綺麗にいただくのが、者としての礼儀だと思うぞ」

 こくりと頷くエプル。そして黄色っぽい断面をさらす野菜にまた、牙を突き立てて粉砕する。

「……でもこれは仕方なくない……? 切ってもらうなりはできるだろうが」

 また首を振る。

「……まるごとでも、切ったものでもそう変わらんだろうが」

 それでも否定する。

「……」

 とうとう王は口を閉ざし、食事を終えた。一方の側近は、ゆっくりと力を込めて野菜にかじりつき、まだまだ食事に時間がかかりそうである。


◆◆◆◆


 ファンタジーにおける旬の食材って、考えていますか?


 よくあるのが露天で色んな野菜が売ってるパターン。もしかすると現世と似て非なるものかもしれませんが、収穫時期の違うものが隣り合っておいてあることって少なくないと思います。

 仮に同じ畑に、同じ時期に採れるとしても旬というものがあれば、どちらがおいしくて、どちらが売れやすいかなんてことも考えられるんですよね。旬まで同じなら同じ量を売りましょう。

 また、季節という概念が色濃く存在するなら、旬という概念もまた存在を増すことでしょう。年中均一な気候である場合、収穫時期はあっても旬という概念は軽薄になると思うのですが、どうなんでしょうか。

 これくらいの実になったら食べ頃、という感覚で刈り入れることが多くなりそうですね。いっそ旬なんてないんじゃないかな。


 そんな妄想を膨らませて、一週間の前半が終了です。まだまだやってきましょう。

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