[短編(オリ)]荒廃世界の転生生活4

 そこからは早いものでじっと待ちました。なぜかは分かりませんが、空腹もなく、じっと飽きることなく、おそらく魔物を観察し続けました。

 そのドラゴンはといえば、この洞窟のなかで、ひたすら眠り続けていました。ふと目が開かれ、こちらに向こうとも少しすればまた閉じる。身体を治すためでしょうか、余計な体力を使わないようにしているようです。

 しかし見た通りの深手。消毒液を持っていたとしてもそれがドラゴンにとって無毒なものであるのかも、またこの世界にそういうものがあるのかは分かりません。

 すなわち、成り行きを見守るしかありません。

 そんなことを考えていた夜、冷たい地面に横になっていると近づく気配がありました。しかし彼であることは分かっているので、寝たふりを続けます。

 ふいごのような呼吸。不規則な足並み。地面を踏みしめ、砂が落ちる音。鼻息が襲いかかってきます。

 動いてはいけません。ようやく彼からのアプローチが来たのですから。

 見られている。

 グルグルとした唸りがいつまで続くのかと思った頃、彼はまた遠ざかりました。

 夜が来るたび、こちらのことを知ろうとしてきました。

 そしてあるとき、寝ないでいると彼がこちらに歩いてきます。まだ治りきっていない首を揺らしながらのにらめっこのあと、目を細めてさらに距離を詰めてきます。

 隣に座り込むと、首を背中に乗せ、またこちらをじぃっと見てきます。

「なにもしませんよ」

 伝わるかは別として、事実を言う。ここで手を伸ばしでもしたら逆戻り。のんびりと朽ちない身体で待ち続けます。

 毎日二人きり。次第に距離が縮まって、とうとうドラゴンは接触を図ってきました。

 壁にもたれて眺めあっていたところ、ぐぅと首を伸ばして、ゆらゆらと揺れるのです。その目に警戒心はなく、出会ったときよりも穏やかなものでした。

 だから応えました。眉間あたりに触れてあげました。力加減が分からなかったので、滑らせるように。

 するとどうしたことでしょうか。クルクルと喉を鳴らす彼の身体が、まるで早送りした映像を見ているように、ただれた首に皮膚が、鱗が覆いはじめました。


 信じて、信じられように、なりたいです。


 ふと思い出す、自分の口から出た言葉。

 手負いのドラゴンはどこへといったのでしょうか。指も、翼も、彼は気づいていないようで、ひたすらに構って欲しいとすり寄ってきます。

 魅了されていました。輝きを取り戻した、凛とした体躯に。

 ただれていた場所に手を伸ばしても、彼はまた、喉を鳴らすのでした。

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