[短編(市場)]彼は寝たまま
ギルが溶けてる。
ベッドの上でそう言うしかない姿が彼である、と理解すると、頭の上にあったらしい寝藁がパラパラと落ちた。
昨日の夜、ギルが必死に作業机に向かって石を削っていたのは覚えてる。ここ数日、ずっとそうだ。紙と石に視線を注ぎながら、ガリガリと音を鳴らしていた。
私が受け取った紙自体に問題はなかった。ただ、たまたま、工程と日程に無理があった、と昨日は言ってた。だから私は悪くない。
体をゆすって藁を払う。それから溶けてる彼の脇に腰を下ろしてみる。いつにも増して穏やかな寝息が聞こえて、いつまで起きてたんだろうと首をかしげる。
後ろを見ると、作業机の脇に置いてあるランプの油が残り少ないみたい。昨日の夕食後、足していたから結構な時間まで続けていたのかも。
えっと、たしか、あのランプが二個あれば、一晩は十分に過ごせるんだっけ。ここに住み始めてからも使っているランプは、黒く汚れきっていた。後で教えてあげよう。
改めて彼に向き直る。うつ伏せで、壁の方へ顔を向けて、無防備に口を開いて舌をべろんとシーツに落として。こういう姿を見るとつついたりしたくなるけど、疲れてるみたいだから止めておこう。またしかられたくないし。
そういえば、寒いかも。足裏にひんやりと感じ固い感触。ギルはふかふかの布団に埋もれているけれど、起きたら寒いなんて、きっと嫌だろう。火を起こそうっと。
移動して、暖炉の傍に腰かけて、首を伸ばして脇に積んである薪を放り込む。ぼふっと黒い煙が上がるけど、息を止めて目を細めておけば怖くなんてない。
それから、ポーチから紙を取り出して、魔法の火を送り込む。なかなかつかなかったけれど、三回なら早い方。
パチパチと激しくなっていく勢いを眺めながら、そういえば、お肉を焼くとおいしい、という話を思い出す。ラクリがそう口にすると、隣でリエードが食べれたもんじゃないよ、と怒ってたっけ。
残念ながらそのときはご飯の後だった。お肉……どこかで買ってこれば、暖炉で焼けるかな……。
くるりと振り返れば、ギルはまだまだ起きそうにない。どこかに余ってないかと台所を見て回るも、あるのは日持ちのいいものばかり。
これもお肉だよね?
どうせ今食べる分だし、試してみよう。一つを暖炉の前で紙を破いて、ふと気がつく。
どうやって焼こう?
口に咥えたら食べちゃうし、火は熱いし。平たい薪を探したら忘れちゃうだろうし……。
ギルを起こしたら……だめ、だよね……。どうしよ。もったいないから、これは食べちゃおう。それで、ギルが起きたらお願いすればいいんだ。
お水ほしいなー。濃い塩の味に、目を細めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます