[創作論]無言と有言
カサ、カサ、と音がなる。
赤く色づいた葉が、いちまい、またいちまいと、風に揺られることなく、まっすぐに地面に落ちては、またカサ、と積もっていく。
木々が冬支度をもくもくと進めているなか、あたりに視線をめぐらせている青年の姿がある。冷気をはらむ風がヒュウと撫でても、肌の露出の多い彼はびくりともしない。
目を閉じながら、手にした木の枝を軽く持ち上げたたずんでいる。
カサ。ザッ。タタタン、タタタン。
音がどこからか鳴り始めたそのとき、青年はくるりと背後に向き直り、目を開く。むき出しの土を音も小さく踏みしめながら駆けてくる黒い塊は、振り回す枝に当たることなく真横からタックルをかます。
重い衝撃にごろりと転がる青年は一回転。一方の奇襲者は着地して、ふん、と鼻息を荒くする。
止まった青年は枝を手放し膝たちになり、じっと見つめてくる黒い毛玉を見やる。
「ししょー、どうやったら気配なんて読めるんです?」
それから立ち上がり、服にまとわりつく土も葉っぱも気にする様子もなく、毛玉に歩み寄る。青年の腰くらいの高さの獣は再び鼻を鳴らして、右前脚で汚れた裸足を踏みつける。
「痛いですって、ししょー。後ろかと思ったら横なんて、ごまかすのうまいっすね」
硬い皮に覆われたそこには、白い筋がつくばかり。それを認めて、獣は一度、ウォフ、と吠えた。
「もう一回っすね、ししょ。今度こそ抱き締めてやるっすよ」
にやりとする青年の視界が柔らかい黒に覆われ、再び地面に転がるのは、数秒後のことである。
◆◆◆◆
一方通行に見えて意志疎通がとれてるコンビもの、いいですよねぇ。
片方は発言してるのに、もう一方は異なる言語をしゃべる、とはまた違った景色が作れますよね。もしかしたら音を発さない方が超能力者なのか、はたまた一般的人間では感知できない音なのか。
音ではないコミュニケーションをとれる。ただそれだけなんですけどね。
読者は何をいってるのか、妄想する。もちろんそこにある手がかりを使って、仕草すらも手がかりにして、こうに違いないと思い描く。
そういった視点では、読者を引き込むのに有効な手段のひとつなのかもしれませんね。当事者たちだけが分かっている、ということは。
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