[日記]亡骸

 彼か、彼女か、亡くなっていた。

 道端で、肢体を支えることができなくなって、つんのめるようにして、体を大地に預けていた。襲われた様子もなく、むしろ美しい。

 まだ艶のある毛並み。だが、しっかりと閉じられた瞼。口の回りには乾いてしまったのだろう唾液が光っていて、おそらく病か何か患っていたのだろう。

 そして、転げ落ちた訳ではなさそうだ。起き上がって、首をくるくると回していれば、生きていると分かることだろう。

 だが、それは亡骸だ。そんな光景が見られるはずがない。

 亡骸。誰もが、いずれたどり着く。

 そういえば、アシダカグモについて話したことだろう。ある日家のなかに現れた、いわゆる同居人。天井近くの壁、段ボールの裏、浴室の壁、と色々なところに出没した。

 あるときは作業中、足元をせかせかと歩くことも。あのときは驚いた。

 彼、あるいは彼女は、私がそこから去る日に、亡くなった。

 引っ越しのために段ボールを積み上げられ、隠れる場所がなかったのだろう。カーテンにぶら下がっていた。

 朝方は脚を動かしていたが、去るときには、カーテンの揺れに従うばかりで、動かなくなっていた。そもそも、家具付き物件だったので、私が処分しないといけない、ということはなかった。

 いずれ、そうなる。ただ生きているだけで。

 いっそのこと、死んだら空気になれればいいのに。でもそうしたら、人の管理なんてできないか。

 なんともめんどくさい。

 亡骸と共にある世界に生まれたのは、きっと生きているから、なのだろう。

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