[短編(オリ)]病院

 待合室。どこかで使われているのであろう薬品の、空気に希釈された臭いが鼻をつく。

 好きにはなれないが、嫌いとは言い切れない独特のそれに、形容しがたい感情を抱きながら、待っていた。というのも、こんなところで待ち合わせをしているのである。

 すでに面会の受付は済ませており、あとは待つだけだ。外出許可が出たということで、嬉々とした連絡が昨日あって、折角だからと名乗り出たのだ。

 やがて、やって来た。よたよたと松葉杖をつきながら、三本の足で近づいてきた。

「久しぶりぃ」

 その短い一言にある抑揚は、いつもと同じものだ。

 付き添いとして着いてきていた看護婦に二時間だけの散歩だと告げられて了承する。

 積もる話もあるが、時間一杯話すこととしよう。


◆◆◆◆


 なんだかんだ、幼少期には月一くらいのペースで通院していたような記憶がありますが、懐かしいですね、薬品の臭い。


 病院の面会って、人によって抱くものが全く異なるはずなんですよね。怪我だったり、通院していたり、入院していたり、急患だったり、相手によって景色が全く異なるものです。

 そこに幽霊などの異物を混ぜてもいいですが、無意識に感じているのであろう命のエネルギーを現すのにうってつけの場所ですね。


 多くの人が新型コロナによって、直接的にも間接的にも苦しんでおられることと思います。負けるなとか、そんな無責任な言葉をかけるだけの勇気なんてものはありません。

 しかし、生きる以外に道はありません。

 だから、生きてください。疲れたなら、休んでください。笑ってください。

 陳腐な言葉に、感動をして、励まされてください。そこに物語なんてものはいりません。何もない日々を送る者からは、これだけしか送れませんから。

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