[短編(オリ)]契約者数No1

 黒が空を支配している。

 雲があるわけではなく、かといって月が見えるわけでもない。澄んだ天も、砂をちりばめたような白い星があるわけでもない。

 ただ、この空の黒よりも深い、真ん丸な黒が絵のように、ぽつんと浮かんでいるだけだ。

 翼を持つ獣が、寝そべりながら暗黒を見上げている。光源などないのに、その姿や、彼を支える大地は不思議と闇に飲み込まれてはいない。

「今日も、退屈な空だ」

 そう呟いた獣は、ゆっくりとその身を右へ横たえ、四本の脚を投げ出した。そのままじっとしていれば、うつらうつらとし始める。呼吸の間隔も開き、規則正しく胸が上下する。

 いよいよ目が閉じようかという時のことであった。バチッと鼓膜を貫く音と共に、天の闇を閃光が切り裂き、獣の近くへと落ちた。

 雷は低い雑草ばかりの不毛な大地へ着地すると、そこに穴を穿つ。みるみるうちに広がっていく円は闇をたたえながら、巨体を持つ翼の持つ獣さえも飲み込んでしまうだろう大きさえと成長し、止まった。

 驚いたのか、獣はのそりと立ち上がり穴へと近づいた。じっと覗き込んでみるものの、空と同じ闇が広がっているだけだ。

 尻尾を一振り。欠伸を一つ。

 それから飛び込んだ獣が次に目にしたのは、お菓子の詰め合わせを持って、満面の笑みを浮かべる顔馴染みの魔女の姿だった。

 途端、獣の眉間に深いシワが刻まれた。


◆◆◆◆


大翼の者(獣くん)、今ならクッキー10個で契約できます。しかしただのクッキーではいけません。デリシャスなクッキーでないといけません。


先日のウィッツの話にて出てきた魔物わんこ、魔物としては指折りの実力があるのですが、いかんせん強すぎて魔女たちのいる世界に喚ばれないんですよね。

よばれたとしても対価の必要な契約なので、払いきれない場合が多いこともあり、恐れられているわんこです。でもスイーツ大好き。


さて、ファンタジーでの契約のお話。

精霊とかの絶対的存在と契約をっていう話が広まり始めたのは、某RPGからなのかはさておいて、使役できるという意味では憧れ設定だと思います。

しかし、簡単に契約契約と言いますが、この単語には、その世界においての価値観と、存在の意義がよく現れそうなものな気がします。

例えば、人と精霊の関係性を結ぶことを契約というならば、単なる隣人として存在します。この二人には、見てますよ程度の無関心な関係しかないことになることでしょう。

精霊が誓うことを強いるならば、その誓いが精霊にとって大切なものであると。

人のことを気に入って契約するのならば、精霊は親愛なる友となりうる存在と見ている、とか。


一口に上位精霊と契約していて、スゴインダゼ感を出したとしても、それはそれでいいでしょう。しかし、そこには人と精霊の背景や情動がどんなものであるかを考えておくと、色々なネタが浮かんでくるのではないでしょうか。

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