[短編(市場)]雇用契約
ジャラ、と音が酒場に響いた。既に遅い時間ということもあり、酔った客たちによる喧騒により、多くの人の耳に届くことはなかった。
飲食のお代ではない。店主ではなく、カウンターに座る客から客へと差し出された麻袋は、小さな山を作っている。
「まだ足りないかい、傭兵様」
一方の客がグラスを空にした。もう一方は目の前の袋を見つめながら、まだ半分はある酒を少し口に含み、転がした。
「確かに、傭兵様の行きたい方向とは真逆さ。けど、家族のいる私たちのことを思って、一肌脱いでくれないかい」
袋を差し出した商人らしい男は、笑みを絶やさない。一方、傭兵と呼ばれた男は酒を飲み込んでから、喉を鳴らす。
「……なんで、お前の言うことを聞く必要がある? 契約してから口を挟め。今は受け付けていない」
もう誰かと契約してるのかい、と商人が食器をカウンターに上げた。
「あぁ、先約がある。違約金も含めて、おまえに払えるもんでもないだろうがな」
それは残念だ。席を立ち、手を伸ばして麻袋を回収した商人は、その中から硬貨を取り出して傭兵の脇においた。
「お釣はとっといてよ。代わりに、また会ったら贔屓してね」
身振りのいい優男は雑踏に紛れていなくなってしまった。がたいのいい男は、落とし物をちらりと見て、
「覚えておくには、はした金だな」
と店主を呼びつけた。
◆◆◆◆
300pvありがとうございます。
そういえば、今日は5日ですね。そう、あの日です。
さて、今回は金の絡む契約のお話です。
傭兵、ギルは先約があると言いましたが、この日はシェーシャと約束があってですね……それは置いておいて。
冒険者とは違い、契約関係にある雇い主とあれやこれやとする必要が出るのですが、このときの契約レートってどれほどなのでしょうか?
個人対個人の交渉なので値段の吊り上げとか値切りとかかなり頻繁に起きそうですが……ギルは下手そうですね。よく傭兵でやっていけたなおい。
日本では、傭兵という単語そのものは有名ですが、紛争現場とかだと普通なんでしょうね。そのあたりの知識も知っておくと、物々商売とはまた違う価値観や価値の付け方を知ることができそうですね。
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