[短編(オリ)・創作論]隣り合わせの夢
彼女が見覚えのない場所にいた。
軽そうな革バッグを右腕にかけて、長い髪を揺らしながら歩いていく。
不思議と景色は、カメラのように彼女だけを中心に捉えて、付いていく。自分は後ろにいるらしいのだが、たまに隣に移動したり、顔を覗き込んだりしているようだ。
寝たはずなのだが、なぜこんなところに。それに、声をかけているのに、彼女は振り向かない。
そうなると、これは夢なのだとはっきりと分かる。それでも主導権は握らせてくれず、浅い睡眠の私は、ひたすらに一人で歩いていく彼女を追いかけている。
やがて立ち止まる。十字の車道に面した公園を歩いていたらしい。横断歩道を渡ろうとしているようだ。
相変わらず、可愛い。自分には勿体ないと思えるくらいに。
視界が彼女の隣に移動した。ふと、何かを思い出したらしい彼女が文面を打ち込むさまを、至近距離で見ることとなる。視界の隅にどうにか映り込んだメッセージをどうにか盗み読もうとしたが、その瞬間、世界が真っ暗になった。
いつもの天井がある。茶色い板張りの、朝日に照らされた蓋だ。
昼寝をしようと寝転んだことを覚えている。つまり、昼寝は大成功だ。
ふと、添い寝をしていた携帯端末に目が行った。チカ、チカとランプが規則正しく点滅している。マナーモードだったか。
体を起こしてボタンを押す。ロックを解除すれば、メッセージアプリのアイコンが表示されていた。
夢にも出てきた彼女からだ。数分前に送ってきてくれたらしい。
「ねぇ、急な話で悪いんだけど、泊まらせてかれない?」
またか。もちろん、オーケーだ。返信すればすぐに既読がつく。だが、何故だが寒気がして、電話番号を打ち込んだ。
コールが数回なってから、声が聞こえる。
「どちら様ですか? 今、事故があって…」
知らない声に、彼女を出せと伝える。
「すみません。事故に遭った女性の持っていた携帯電話が鳴っていたもので、近くにいた私が出ただけなんです」
血の気が引いて、頭が真っ白になって、そこからはよく覚えていない。
◆◆◆◆
今回は、「現在を映し出す夢」でした。
各個人の見聞きしていることを1世界と仮定すると、並列世界を夢として見ているということになりますね。
予知だとか体験とかよりもタチの悪い、並列の夢。
必ず自分が傍観者となるうえに、景色の対象の遭っている物事を見るだけしかできない。しかもそれは事実として起こっているわけですから、現場を見ていた彼らには無力だったという意識を植え付けることでしょう。
もちろん囚われた仲間の様子を伺うために夢を見るという展開も考えられこそするものの、実際のところは無力感や焦燥感に駆られるのがオチなんでしょうね。
次はどんな感じの夢にしましょうか?
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