[短編]いつしかのお話
満天の夜空の下、ひたすら広い草原の真ん中で焚き火が一つ。パチ、パチと辺りに存在を示すそれにぼんやりと照られているのは二本脚の茶の鱗類。膝を立てて座りながら、身の丈はあるだろう剣を抱え、ぼんやりと目の前の光景を見つめている。
周囲には馬車がいくらかあり、その荷台に寄れば中からいくつもの寝息が聞こえてくる。だが彼は眠ろうとはしない。
彼は今日の昼間、路銀を稼ぐためにキャラバンの護衛に参加した。宛のない中での、次の目的地へと向かうという彼らに同行すれば、都合がとてもよかったのだ。
無論、彼の隣には旅の道連れでもある山飛竜も丸まって眠っている。時折、歯ぎしりの不愉快な音を奏でているが、起こすような真似はしない。
「…今日は、長いな」
変わらぬはずの時間の流れの遅さに、傭兵はぽつりと呟いた。彼は適度な大きさの石を探し、暇なときに削り磨いているが、生憎、朝に売り払って革袋は空っぽだ。原石の調達もできていない。
それに加え、あまり高値で買ってもらえなかったのだ。あの町では宝石はただの石ころよりも美しい程度にしか価値がつかないらしい。
尾が弱々しく持ち上がり、ぺたんと落ちる。
どうにか背を伸ばそうとする焚火は、パキンと足場を失いこけた。
長い溜息。
ふと、彼は視界の隅に入ってきたものにハッとする。
「どうした、シェーシャ」
寝入ろうとしてしまっていたらしい。いつの間にか起き上がり、背後から首を伸ばして覗き込む同行人は目を大きく開いていた。
「眠いの?」
これも仕事だと答える彼は、揺れない瞳から視線をそらす。
「違うの。ギルは、眠いの?」
立ち上がったらしい彼女は移動して、隣に座り込んだ。焚火に照らされ、若葉色の鱗が煌めく。
「おまえに心配されるとはな。あぁ、こんな時間だ。眠い」
少しの間。
「じゃあ、寝ていいよ。代わりに、私が起きてる」
いいのか。彼はまた溜息。
「怪しい誰かを見かけたら、皆を起こせばいいんでしょ? それなら、できるに決まってるでしょ」
フン、と鼻を大きくするシェーシャに、ありがとう、と答えた彼はその場で横になり、間もなく寝息を立て始めるのだった。
「おやすみ、ギル」
◆◆◆◆
ギルの一人旅時代って、全然考えたことないんですよね。シェーシャとの出会いは市場で書きましたが、旅立ちから彼女に出会うまで、どうやって生き延びてきたのやら。
思いついたらまた書くことにしましょう。
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