[短編(オリ)]私の描く異世界転生(前編)

見慣れぬ低い天井に、目を細めた。背中のじとじととした、ふかふかの感触。おそらく高級な布団であろう。

よくよく見れ見れば、視界の隅には高そうな明かりが見える。首を動かしてみれば高そうな調度品の数々。ベッドの横には小さなテーブルがあって、その上には空色の液体の入った見覚えある小瓶がひとつ。

即効性のあることで有名な薬だ。ここにくるまでに、何回これを使っただろう。

いや、待て。ここはどこだ。まだぼんやりとしている意識に叱責しながら飛び起きる。

魔王に挑み、そして負けた。たった一人の魔王に、仲間と共に敗北したところまでは、覚えている。

部屋の中に装備がないか探した。だが武器も防具も何もない。あるのは、空っぽの調度品と高級ベッド、そして瓶一つ。

俺はこの世界に召喚され、勇者となる存在だと呼ばれた。訓練を重ね、首都を出た。

妙に広く、あでやかなのに、殺風景な部屋だ。

襲い来る魔物を討ち、人々を助け、仲間を増やし、魔王討伐を志した。

ところがどうだ。仲間の盾となるべき俺が一番初めに倒され、そのまま仲間を薙ぎ払っていく魔王は涼しい顔をしていた。

どうしてだ。どうして負けた。

ドアノブに手をかけるが、開かない。全身でぶつかってみても、少しドアが曲がるだけで意味はない。

詰み。こちらに来る前に何度も口にした言葉が思い浮かぶ。

そうだ。まだ意識のあるうちに全員が倒れて、俺だけこの部屋に運ばれたのだ。仲間はきっと、別の場所に…。

そう思うと、力がこもる。一度、二度、三度。ドアを壊すために、勇者は挑んだ。

助走をつけようと、数歩下がりぶつかろうとする。一度、二度と深呼吸をして、本気でぶち破るのだ。

一歩踏み出したその瞬間、コンコン、と音が、扉から部屋へ響いた。


◆◆◆


しばらく前からある、というよりかは形を変えて存在するシンデレラストーリー、あまり書かないんですよね。読む分には面白い、と感じることも多いですが。

成長の過程が少なからずあって…という描写をしたいのでしょうね。魔法に興味があるがあまり適正がないラクリ・エスト。万芽と共に生きてきた彼菜。

あ、短編の主人公はちょっとした怪奇現象に触れる、というテーマなので、例外ですね。

さて、後編はどうなるのでしょうか、お楽しみに。

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