ハラハルトの物語(仮題)
イエローコミュ
第1章 見知らぬ世界で
第1話 見知らぬ場所
ある朝、ハルトという男が目を覚ますと、全く見覚えの無い場所にいた。
ハルトは三十代後半の男性だ。
地方の私立大学を卒業後、就職してから今まで特に大きな問題も無く、日々を過ごしてきた。
そんなハルトは、数日前から不思議な夢を見る様になっていた。
何の脈絡も無く、夢の中に神と思われる存在が現れ『○○に行け』と告げてくるのである。
ハルトの夢の中に現れる神は、姿すら把握出来ないのだが、何を持ってしても対抗したり抵抗できる様なモノではなく、ただただ圧倒的な存在であった。
ハルトは、自分が生まれてから今までの間、神の助けになるようなことを何もしてこなかったことを己の罪と認識し、自身の罪の重さ故に恐怖した。
ハルトは神から許しを乞うため、必至に謝り続けていた。
あまりにも必至になって謝っていたため、夢の中で神から告げられた『○○』という場所が何処のことなのか、さっぱり分からずじまいであった。
神から、こちらの話を聞けとツッコまれそうな感すらある。
幸い、ハルトの仕事には影響が出ていなかったが、目が覚めてからも、自身の罪の意識からもたらされる恐怖は頭から離れず、夢を見始めてからの数日、ハルトは寝不足のため意識が朦朧としていた。
目を覚ましたハルトは、はっきりしない頭で考える。
ここは何処なのだろうか。
布団で寝ていたはずなのに、目覚めたら見覚えが無い場所というのは、どういうことなのだろう。
あまりに現実味が無いため、まだ夢の中なのかなどとぼんやり考えている。
漸く意識がはっきりしてきだし、周りの状況を観察するハルト。
背中が冷たく感じたので、自分が寝ていた所を見てみると、地面に直接寝ていたようだった。
ハルトは直ぐに立ち上がり、パジャマに付いているであろう汚れを叩いて落とそうとした。
「うおっ。
パジャマが泥だらけに…なってない!?」
ハルトは、パジャマに汚れが付いていないことを訝しむ。
地面に直接寝ていたのなら、汗等の水分で身体が濡れて、泥汚れが付いている筈だ。
ハルトは、自身に起こった事が全く理解できず、状況を把握するために改めて周囲を見回す。
ハルトの直ぐそばには、樹が数本生えているだけだった。
ハルトが立っている場所から少し離れた所には様々な木々が見えるが、ハルトから見える範囲には、建物らしき物が見当たらない。
自分がいる所は、都心部ではないのだろうと判断するハルト。
しかし、どんなに田舎だろうとも、遠くには山並みかビルが見えるはずだと思い、あちこち見てみるが、白く霞んでいて見通せない。
あちこち首を巡らせて周囲を確認しても、現在地がさっぱり分からない。
ハルトは、とりあえず直ぐ側の木を見てみる
ハルトのすぐそばの樹には、幾つかの果実が生っている。
何故かは分からないが、ハルトはその果実が妙に気になり、じっと見つめる。
ハルトは、その実が何の実か観察してみるが、さっぱり分からない。
その果実は、林檎か梨の様な形をしているが、果実の色は黄色い。
ハルトは果物に詳しい訳ではないので、幾らじっくり見ても分からないままだった。
幸い、手を伸ばせば届く高さに実が生っているので、実をもぎ手にとってみる。
やはり目にした通り、林檎の様な薄い皮の果実だった。表面はツルツルしている。
ハルトは、両手で実を拭い、息を吹きかけてホコリを取ってから、匂いを嗅ぐために鼻の傍に実を持ってくる。
ハルトが、その果物を嗅いでみると、微かながら柑橘類系の甘酸っぱい香りがする。
ハルトが匂いを確認して、食べても害が無さそうだと判断し、いざ齧り付こうとしたとき、不意に声をかけられた。
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