終編・望郷

1.原風景

何処かにあるはずの真昼の太陽は決して姿を見せることはなく

凍てつく吹雪に凍りついた木々がどこまでも続く

その合間に時折見えるリボンだけが人の生きる痕迹で

それを辿ると帰路につけた故郷

この街にはリボンが無い


2.造花桜花

たかだか満開というだけで自慢げに語られる桜に辟易する

故郷の春そのものであった桜はこんな痩せっぽちで貧相な物じゃなかった

アスファルトの箱に活けられた桜を造花としか認識できない

癒しとして勧められた桜に、望郷して疲れてしまう

弘前公園、今年もきれいに咲いたかな


3.夢日記

亡くなったものたちが夢に出てくる 

薄暗くよごれた、築50年の4畳間

壊された賞状入れと、弁償に買ってきてくれた未開封のダイソーの写真立て

背丈より積もった雪と、地を覆う根雪の白

声も思い出せない両親

起きた時にとても疲れるから、二度と出てこないでほしい

夢でしか会えない、二度と会えない亡者達よ

消え失せろ 失せろ失せろ


4.マリー

生まれた場所に心臓を忘れてきた

代わりに詰めた酒が戻れ戻れと脈打ち、体中に泥を巡らせる

吐いた息は白く、血は立ったまま眠っている

とおく凍てつく地を双眸に宿し、その景色に凍死する

寒さが恋しい 

争いが恋しい

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詩集「 TLのゴミの為のドブ 」 @fatesugi

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