第8話 10月4日

大水が、遠くからやって来るのが見える。



いつも前を歩いているアナタに追いつけるように

いつも少しだけ急ぎ足で歩いた。

追いかけるために伸ばした手を

止めたのは何故だったか。


アナタが振り返り手を伸ばした時に

呼び掛けた声は

すでに、私の遥か彼方から聞こえた。


アナタは、そこに何を見たのか。

そこに居た私は、アナタの中の残像でしかなく

とてもキレイで幼い者だったのでしょう?

私が見たアナタは、とても小さく遠くに見えた。


アナタを遠ざけていた知らぬ間に

私はアナタを追い越していた。

追い抜いたことにも追い抜かれた事にも

気付けなかった間抜けな私達。


もう2度と逢う事も、すれ違う事すらない。

それ程までに隔たれた私達。



遠くから大水が来るのが見える。

さようなら。

もうキレイではなくなった私。

もう見知らぬ人になった人。


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