第108話 歩兵拡張装甲③ イブリスの祠~巨大生物の脅威

 *



「――へえ、それじゃあマリアさんがその能力・・・・に本格的に目覚めたのは、ご家族を亡くされてからだったのですね」


「ああ、昔はあたしもそんなに日焼けしてなかったから――怪我したり、風邪引いたりする度に全身が真っ赤になってたんだってさ」


 もともとマリアは色白な子供だった。

 そんな我が子が全身が異常なくらい赤くなり、母親も最初は慌てて医者に診せていたという。


「でもそういう時に限って怪我とか病気とかあっという間に治ってたみたいだ」


「なるほどなるほど。もしかしたら、その能力がなければ、もっと重篤な――それこそ命に関わるような怪我や病気だったのかもしれませんね」


「怖えこというなよ。今更だけどさ」


 引き続き、二人は清流を遡り、森の奥へ奥へと分け入っていく。

 スミスは、マリアの話を聞きながらもキョロキョロと終始辺りを観察していた。


 清流脇のあぜ道はどんどん草が覆い茂って狭くなっていく。最早縦にひとりずつしか進めない道を、いつの間にか案内する立場のマリアが、スミスの背中を追いかける形で歩いていた。


「それで、母さんと爺さんも死んじまったから、これからはひとりで生きていかなきゃならないんだって思って。そんな矢先、あたしに無性に絡んでくる観光客がいてさ。思えば、最初にブチのめしたのはそいつだったなあ。後で聞いたらNWAの元チャンピオンとかで……」


 メルパカン島には滅多に観光客はこないが、それでもたまに、酔狂な手合はやってくる。NWAの元チャンプとはいえ、それは何年も前の過去の栄光であり、相手は完全なロートルだった。


 だが体重も身長も遥かに上回る大人を、まだ幼かったマリアが圧倒したことは確かにすごいことだと言える。


「ふーむ。本来なら魔力を使った身体能力の向上とは自分の肉体を壊しかねない諸刃の剣なのです。それなのにあなたはご自分の肉体の限界値を無意識化でコントロールしている。皮肉なことに、ご家族を亡くされたことで、あなたの生存本能が爆発し、能力を引き出すことに成功したのでしょう」


 スミスはさらに「もしかしたらお母様とお祖父様があなたにくれた最後のプレゼントかも知れませんね」と言うと、マリアは「よ、よせよ……」と照れくさそうに笑った。


「な、なんだよじっと見てきて……」


 足を止めて振り返ったスミスが目を真ん丸に見開いてる。

 マリアが笑顔を引っ込めると、代わりにスミスがニンマリと笑った。


「いやあ、笑うと可愛いですねえマリアさん」


「バ、バカ、何言ってんだよ!」


 ガサガサと、より密度を増してきた木々をかき分けながら、ふたりは尚も進んでいく。ブッシュがさらに濃くなってきた辺りで、スミスは不意に足を止めた。


 そこは森の境目だった。

 今まで強い日差しが降り注いでいたのに、そこから先は背の高い木々が密集して日を遮ってしまっている。


 急激に薄暗くなった森の奥は不気味なほど静まり返り、そこから僅かに涼を孕んだ風が吹いてくるが、心地いいなどということまったくない。むしろ気分さえ悪くなって、マリアはブルっと震えた。


「おい、どうしたんだよ、行かないのか?」


 スミスは地面を見下ろし、林冠を見上げ、たっぷり時間をかけてからマリアを振り返る。


「マリアさん、先程からずっと気になっていたんですが、この森ちょっとおかしいですね?」


「何がおかしいってんだよ。昨日今日来たばかりのおまえに何がわかるんだ?」


「……わかりますよ。こう見えて私は結構博識なんです。大体あなたはそんなに肌を露出しているのに、全然やぶ蚊に食われていないじゃないですか」


「それは――昔からこの辺りの森って何となく虫とか動物とか寄り付かない場所なんだよ。だから『イブリスの祠』だなんて言われてるんだけど……」


「なるほど。今までは近隣の動植物だけで『栄養』は足りていたのですね。では、家畜がいなくなり始めたのはいつ頃からですか?」


「それは――もう数年前からだな。この小川をずっと下っていったところに水牛を飼ってる牧場があるんだ。毎年一頭くらいずつ、去年は三頭くらい行方不明になって……」


「そして今年は子供・・がいなくなったと」


「おまえ、なんでそれを……!」


 スミスが言ったことは事実だった。

 そして島民全員が口をつぐんでいることでもあった。


「いえ、単純なことです。数年から十数年をかけて、捕食対象が本来・・のものに近づいてきているのは明らかですからね。この辺りの捜索はしたのですか?」


「もちろんしたさ。でもどうしてもこの奥の祠にまでは行けなくて。特に年配の島民になればなるほど森には絶対入りたがらないんだ。正直私だって、さっきから薄ら寒いのが止まらないんだよ」


 小麦色の肌をしたマリアは、全身に鳥肌を浮かべていた。震えを押さえつけるように、先程からギュッと己の肩を抱いていた。


「教えて下さいマリアさん。『イブリスの祠』は一体何を祀っている祠なのですか?」


「自分で答え言ってるだろそれ。イブリスってそのまま『悪魔』だよ。なんか大昔に住み着いたバケモノがいるって、そんな迷信があるんだよ」


「バケモノ、ですか」


「バカバカしいって思うだろ。でも年寄り連中は本気で信じてるんだよ。私も正直子供がいなくなるまで信じちゃいなかったよ」


 実際に村長たちは早々にこの件を隠蔽しようとしている。

 子供が消えてしまった牧場夫婦は激怒し、ジャワ島など大きな街の警察に相談しに行こうとして、村人たちに止められている。


 そんな大人たちの姿を見て、マリアはもうこの島はダメなのかもしれないと、密かに考えるようになっていたのだが……。


「大体の事情はわかりました。やっぱり私が来て正解でしたね。さあ、行きましょうか。大丈夫ですよ、何が出てきても私がやっつけちゃいますから」


 突然やってきて、誰にも解決できなかった事件の解決を試みようとする優男。普段ならこんなヘラヘラした手合など眼中にないのだが、不思議と今は頼もしい。これも吊り橋効果的なアレなのかと、マリアは唇を尖らせた。


「ちぇッ、何だよ、ちょっと強いからって調子にのるなよ。そのスーツ着たら私の方が強いんだからな」


「はは、全くその通りです。でも、あなただって、地元に心残りがあっては私の仲間になりにくいでしょう。立つ鳥跡を濁さず、後顧の憂いは今日ここで完全に断ち切りましょう」


 スミスは再び先頭に立ち、力強く歩き出す。

 不覚にもマリアが、「父親みたいな大きい背中だな」などと思ったのは秘密である。


 *


 イブリスの祠に連なる清流は、森の中央に位置するお山の源流より湧きでたもののはずだ。清く美しく、そのまま飲んでも何ら問題のない水だ。そのはずだと思っていた。


 スミスの背中を追い、上流に差し掛かるに連れ、マリアはその光景に目を疑った。


 森はある時を境に変貌――否、変質していた。

 緑という緑が失われ、地面は灰色に覆われ、綺麗なはずの小川が綺麗過ぎることに気がついたのだ。


「いやあ、これはすごいですね。まるでこの世の終わりの風景ではないですか」


 再び足を止め、スミスは川底を覗き込んだ。

 あまりにも透明すぎて小川の底が完全に見えてしまっている。


 スミスと戦ったあの河原にはまだ淡水魚が泳いでいたというのに、ここにはそれらの姿は全くなかった。


「本来なら森の養分とも言うべき腐葉土が水に流れ込んで命を育むはずなのに、リンやカルシウム――要するにミネラル分がまるでないんですねこの川は。普通こういう流れが緩やかな小川には『セストン』という懸濁物ができるものなのですが……ここいら一帯がデトリタスの空白地帯になっているようです」


「よくわかんねーんだけど、どういうこと?」


「つまりですね、こういうことです」


 スミスは手近な大樹に指を立て、生皮をベリベリと剥いだ。

 中には瑞々しい生木、などはなくカラカラに乾いた繊維があるだけだった。


「死んでますねこの木。ここいら一帯もダメでしょう。かろうじて太陽が直接注ぐ林冠部分は緑が茂っていますが、全滅です」


「嘘だろ、何だよこれ? 一体どうして……?」


「上流に行けば答えがありますよ。きっとね」


 そうして歩いていけば、さらに異常な光景が広がっていた。

 野鳥の鳴き声も、獣の息遣いも、虫の息吹も感じられない。


 マリアは自分の生活圏のすぐ近くがこんなことになっているなんて……とショックを受けていた。


 そしてついにたどり着く。

 眼の前に聳えるのは荘厳なる滝。

 落差は有に10メートル以上もあり、本来なら観光名所として賑わうスポット。


 だが今はゴウゴウと滝が落ちる音以外、不気味なほどの静寂に包まれている。

 その場所がふたりのゴールだった。


「やあ、滝の色をご覧になってください。わかりますか?」


「色がぜんぜん違う……!」


 轟々と飛沫を上げて滝壺に叩きつけられる水は薄いエメラルドがかかった色をしている。およそふんだんに栄養を含んでいるのが見てわかった。


 だが滝壺の中央から出口にかけて水は急速に透明度を増しており、それが小川となって下流へと流れていく。まるで滝壺の中に、養分を全て濾し取ってしまうフィルターでも付いているかのようだ。


 つまり……この滝の底にあるものが、すべての元凶なのだった。


「あの滝の裏側に洞窟が――イブリスの祠があるって言われてるんだけど……」


「そうですか……あまりおもしろくないかもしれませんが、滝壺の中を覗いて見てくれますか?」


「おもしろくないって何が――ヒッ!?」


 ――が合った。

 それは人間の死体だった。まだ子供だ。

 右目が収まった四分の一程度になった頭部が、腐りもせずに水の中に浮かんでいる。皮膚は屍蝋化して真っ白になっていた。


「こ、これ、これって――!?」


「犯人の食い残しです。本物の悪魔イブリスがいるんですよ」


 その時、トプン――と水音がした。

 滝壺の中央から、それは・・・顔を覗かせていた。

 口、だろう。ウネウネと幾本もの臭角が差し出され、ものすごい悪臭が放たれる。


「な――なんだありゃあ!?」


「あれが悪魔の正体です。小川の流れに乗って下流まで行き、たまたま近くにいた家畜や子供を捕食して、肉の味を覚えてしまったのでしょう」


「いや、アレってなんなんだよ、まるで芋虫みたいな――って半端なデカさじゃないぞ!?」


「そうですね、先端だけであれなら全体は十メートルくらいありますかねえ」


「呑気に言ってる場合か! 逃げよう! ありゃどうみてもヤバ過ぎるって!」


「逃がしてくれると思いますか?」


 ザザザっと水をかき分け芋虫――バケモノが垂直に屹立する。

 その姿は、潜水艦の緊急浮上を彷彿とさせた。


 そして当然、次の瞬間には横たわらんとする芋虫が、その巨体で水面を激しく叩く。バッシャーン――とすさまじい水しぶきが上がり、辺り一面に大雨が降った。


「――うわッ!」


 マリアは思わず声を上げてしまった。

 何故なら、岸をまたいで芋虫の顔(?)がすぐ目の前にあったからだ。

 光沢のある巨大な黒目のようなものが、しっかりとマリアたちを映していた。


「いやあ、幸いと言うべきですね」


「一応聞いといてやるけど、この状況のどこに希望的要素があるんだよ? 相手は人間だって食っちまうようなバケモノなんだぞ!?」


 会話はしているが、ふたりとも芋虫から目は逸らさない。逸らせない。


「やっぱり栄養が足りなかったんでしょうね。本来ならここまで膨れ上がる前に成体になるはずが、幼体のままここまでのサイズになるとは」


「幼体? これが……? よくわかんねえけど、あんたのスーツならこのバケモノ倒せるんだろ?」


「無理です。この巨体に押しつぶされたら、さすがにスーツがお釈迦になります」


「じゃあどうすんだよ!?」


マリア・・・、あなたにお願いがあります」


「ヤダヤダヤダ! こんな状況でお願いなんてふざけんな!」


「マジで一生のお願いです。時間を稼いでください」


「は、はあああああっ!?」


 こんなバケモノ相手に生身であたしに何させる気だコイツ――と、マリアにとっては隣の優男こそが悪魔のようだった。


「十分、いえ、五分間で結構です。ここで粘ってください。そうしたらあなたと私が戦った河原まで全力で戻ってきてください。そこで仕留めます」


「ほ、本当か? 本当に倒せるのか!?」


「できます。絶対に」


 スミスを見つめる。

 常にあった安い笑いが消え、彼はこの上もなく真剣な眼差しをしていた。


「マリア……どうか私を信じて欲しい」


「いや……そんなこと言って、実はおまえひとりで逃げる気だろ――」


 言いかけた途端、芋虫が動いた。

 グワッっと身体を持ち上げ、マリアたちにその巨体を叩きつけてきたのだ。


 ふたりは弾かれるようにその場を離れる。

 ビタンッ、と硬質な皮膚が岩場を叩く鈍い音と、衝撃波がふたりを襲った。


「マリア」


 スミスは芋虫の巨体越しにマリアを見つめる。

 目は口ほどに……いや、この男に限っては口より目の方が雄弁だった。


 年若そうに見えて、その瞳は奥にとても深い色を湛えている。

 まるでそう木の年輪のように、一朝一夕では決してたどり着けない人生の深淵を知るもののような……ともすれば死んだ祖父のような、老境に差し掛かった瞳の色をしていると、マリアはそう思った。


「私は、多くの仲間たちの犠牲の元に今を生きています。でも自分から仲間を見捨てたことは一度もありません。今だけでいい、私を信じてください」


 その言葉の響きに嘘はなかった。

 単なる優男には到底出せない凄みのようなものも感じられた。

 マリアは「チッ」と吐き捨てた。


「……五分だけだぞ」


「はい。お願いします」


 マリアは全力で芋虫の巨体を蹴飛ばすと、弾かれたように反対側へと走りだした。


「おい、この糞虫め! デカイ図体して大人になれない穀潰し野郎が! 悔しかったらかかってきてみろ!」


「うわあ、辛辣ですね。世の一部分の方々に聞かせたら泡吹いて卒倒しますよその台詞」


「てめえはいいからさっさと行けっ――!」


 視界の隅、スミスが背を向けて走りだすのが見えた。

 スーツのおかげだろう、とんでもないスピードだ。

 いいなあ、あのスーツ……などと思いながらマリアは、大声で思いつく限りの罵声を芋虫へと浴びせ続けた。


 ――ぐおおおおおおッ、と発声器官など無いはずの芋虫が吼えたような気がした。


「なんだよ、怒ったのか――とっ!?」


 盛大な水しぶきを上げながら、芋虫の巨体が迫る。

 マリアはそれを既の所で躱した。


(あんな巨体に押しつぶされたら、床に叩きつけられたトマトみたいになっちまう――)


 マリアは手近な大木の影に隠れるが、芋虫の巨体は問答無用で木をなぎ倒していく。


「ってそうだ、この辺の木は全部ダメになってるんだった!?」


 全ての栄養をあのバケモノに吸い取られ、カラカラのカピカピになっているのだ。

 つまり、どこにも隠れられる場所はない。本当にこの身ひとつで芋虫の相手をしなくてはならない。


「――ちくしょう、なんで私がこんな目に!」


 などと悪態をつきながらも彼女は、滝壺の周囲をぐるぐると周りながら見事な時間稼ぎをしていた。


 芋虫は疾走っこいマリアに翻弄され、なかなか獲物を仕留められずにいた。

 そして――


「もう五分か? ええい、もう五分だ! 今から行くぞこんちくしょう!」


 あの野郎、これでなにも用意してなかったら絶対に許さねえからな――

 動き回ってクタクタになった身体に活を入れる。


 するとどうだろう、マリアは身体に力が戻るのを感じた。

 手足を見てみれば、その皮膚がまるでサウナにでも入ったあとのように真っ赤に染まっている。


 魔力――というらしい。

 それがマリアの全身を駆け巡り、一瞬にして疲労感が吹き飛ぶ。

 眼の前に迫った芋虫をヒラリと躱し、マリアは一目散に下流を目指して走り始めた。


「うおお!? 気持ち悪っ――!」


 余裕で引き離せると思っていたが甘かった。

 芋虫は巨体をたわませ、木々をなぎ倒し、水しぶきを上げながら、小川を下って追いかけてくる。


 だが遅い。スピードならまだマリアの方に分がある。

 これなら余裕で逃げ切れるだろう。

 そう思った次の瞬間――


「嘘だろ!」


 バァンッ、と地面が爆ぜる音と共に、芋虫が飛び上がった。

 まるで尺取り虫のように自身の身体を縮めて地面を思い切り叩いたのだ。

 大きな影が林冠部を飛び越え、マリアの頭上へと迫る――


「うわあああああッ――!」


 疾走る。限界を越えて手足を振りまわす。

 ブチブチっと筋肉と血管が断裂するのも構わず、マリアは思い切り地面を蹴った。


 直後、自分が今までいた場所に芋虫が着地し、地面が大爆発を起こす。

 凄まじい衝撃に吹き飛ばされ、マリアは泥まみれになって地面を転がった。


「ちく、しょう、あと少しなのに……!」


 腕の力だけで上体を起こす。

 足は――ダメだ、動かない。


 ジンジンとした痺れが両足を包んでいて、殆ど感覚がない。

 いや、少しずつだが回復しているが、とてもすぐには走れそうになかった。


 見上げれば、芋虫がグバァっと口を開くところだった。

 円形のヒダが幾重にも見え、その隙間からはノコギリのような乱杭歯が生えている。あんなのに齧られたら、痛みと恐怖で正気を失ってしまうだろう。


「クソクソクソッ――、何やってんだよ優男ぉ! 何とかするんだろ! 出来るんだろぉ! 死んだら絶対化けて出てやるからな――!」


 ギロチンのように、断罪の鎌のように、イモムシの頭部が振り下ろされる。

 寸分違わずマリアへと迫るかに見えた汚穢な口はしかし――


『熱烈な告白ですねマリア。死した後もまた私に会いたいなんて』


「え――」


 空中に頭部を投げ出したまま、芋虫の巨体が静止していた。

 全身を仰け反らせた不自然極まりない状態で、芋虫は厭うかのように身体をグネグネと蠢かせた。


 よく見れば後頭部らしき部位に何かが突き刺さっている。

 その正体は短剣だった。短剣と言っても人間の胴体ほどの大きさもある短剣だ。

 柄の部分にワイヤーがついており、ピンと張り詰めたそれが、マリアが押しつぶされないよう、芋虫の巨体を引っ張り上げていた。


『お待たせしましたマリア』


 清流の遥か後方、流れる水飛沫をかき分けて、一体の巨人・・が屹立している。


 大きな人型だった。

 覆い茂る木々の半分ほど、6メートル強もあるだろうか。


 スラリとした細身のシルエットに、全身には白亜の装甲を纏っている。

 手足は細く、胸の部分はややマッシブに膨らんでいるのが見て取れた。


 両肩と両膝の脇には、ひときわ大きなシールドが付いており、巨人はワイヤーが伸びた両手で芋虫を引っ張りながら、同時にシールドをつっかえ棒のように地面に突き刺して踏ん張っている。


「マジでロボット、なのか……?」


 現実とは思えないその光景に、マリアはただただ呆然とつぶやくのだった。


 続く。

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