働こうよ編
第21話 働こうよ① 他種族と彼女の変化
僕が目覚め、セーレスと出会ったこの世界の名前は
そこには大きく分けて五つの種族が暮らしているという。
獣人種。
通称ライカンスロープ。
獣の特徴を持つ亜人種で、人間よりも身体能力に優れている。
寿命は人間よりやや長いか同じくらいで、開拓精神にあふれている。
ヒト種族の王政府に追われ、魔の森の外縁に住み着き、森を開拓しながら版図を広げている。
全体の総数は人間に比べ3分の1程度。魔力的素地は低い。
長耳長命種族。
通称エルフ。
平均寿命が1000年に届く長命種族。
寿命を迎えるまで見た目老いるということがない。
生活自体は獣人族と同じく自然と融和して生きるが、非常に閉鎖的で保守的。
他種族と関わることがほぼない。
例外として妖精や精霊との親和性が高く、精霊の加護を得るものはエルフが多い。
一説にはエルフが森に還った後に、その魂が昇華したのが妖精だとされているが不明。長命であるがゆえに、精神的成長が他種族に比べて遅く、大人に見えても妙に子供っぽかったりする。
魔物種。
通称モンスター。
魔力を持ったケモノの総称。
体内に魔石と呼ばれる核を持っている。
肉体的に強靭で、稀に固有魔法を使うものまで存在する。
知性が高いものもおり、普通のケモノより戦闘力が高い。
魔族種。
通称インテリジェンス。
今は失われた神話のケモノの特徴を残す根源27貴族とその眷属を言う。
特に27体しか存在しない根源貴族は極めて知能と魔力が高く、他種族を凌駕する。
総じて長寿で、中には1万年を超える寿命を持つものもいる。
基本的に自分と眷属以外のものに干渉することがなく、自分の領地にこもり切ることが多い。
未だその生態のほとんどが謎とされている。
人類種ヒト種族。
通称アガペスト。
寿命は70年前後で、力も弱く、知性も個体差が激しい。
極めて強い繁殖力を有し、他種族を凌駕するほど繁栄している。
また魔法を使える魔法師が最も多いことも特徴的であり、稀に勇者と呼ばれる上位個体が誕生する場合もある。
*
――以上が僕が一月以上かかってセーレスから聞き出した真実というかこの世界の常識だった。
改めて、自分がとんでもない場所に来てしまったと痛感した。
人類種ヒト種族というのが人間なのは間違いないとして、他にも獣人種、エルフ、そして魔族種やモンスターが存在するのだ。
それ以外にも精霊信仰が強く根付いており、セーレスが使う魔法はその精霊――四大精霊のひとつ、水に属する魔法なのだという。
四大魔素とは炎、水、風、そして土に分類され、それぞれのチカラは全て、精霊からチカラの一端を借り受けることで魔法を発現させることができるとか。
なんとなくだけど、全然全くこれっぽっちも期待してないけど、僕は魔法は使えないのかな、みたいなことを聞いてみた。
「え、あ……あー」
セーレスの細長い眉がハの字になって、ポンポンと頭を撫でられた。
あとで詳しく聞いてみると、僕にはまるで魔力というものがないらしい。
魔法は魔力、そして意志の力――愛と憎を以て世界に発現させるもの。
魔力と意志力、そのどちらもない僕には万が一にも魔法は使えないそうだ。
残念だ。異世界にきたんだから、カッコよく魔法を使えると思ったのに。まあ物語にあるように、最初に神様に出会わなかった時点で僕は凡人のまま
ニート生活ばかりをする僕がやり直せるチャンスを、神様がくれたということなのだろう。勝手なことを――と思うけど、同時に感謝もしている。
「タケ、ル?」
こんな可愛いエルフ娘に会わせてくれたのだから。
*
あれからまたたく間に一ヶ月が経った。
あれから、というのは僕とセーレスが町に行った日であり、僕が冒険者ギルドに登録してゲルブブ肉をお金に変えた日から、である。
僕とセーレスとの水辺での暮らしは色々と変わった。
まず僕はだいたい7日に一度の割合で、町へと出かけるようになった。
セーレスとのより良い生活のために必要なものは町の物資。
それを購入するため現金は必須だ。
だから僕は定期的に冒険者ギルドの仕事を熟すようになったのだ。
とはいえ、やっていることは初級も初級、森で採取した薬草を、ギルドを通じて町の薬師さんに卸しているだけだ。
ゲルブブ肉を入れて行った背負いかごの半分ほども持っていけば、それだけで大体2〜3000ヂルになる。小遣い程度の金額ではあるが、目的のものを買うだけなので十分なのである。
いや、それにしても、セーレスのためとはいえ、穀潰しニートだった僕が仕事をするだなんて、幼馴染の心深が知ったらビックリすることだろう。
まあ主に薬草の採取はセーレスがしてくれている。僕はほとんど後ろで手伝っているだけだ。
森のことで彼女が知らないことはない。
ちゃんと町でお金になる薬草も把握済みで、中には売れば大金になる毒草もあったが、それは「めっ」とセーレスに叱られてしまった。そのときのほっぺたを膨らませた彼女は超可愛かった。
僕が町で購入する一番大きなものは、もちろん生の卵だ。
この魔法世界では『クルプ』という鶏のような空を飛べない鳥の卵を食べるのだそうだ。
実際見たことはなかったが、地球にいた『にわとり』と大差はないと思う。
なぜなら卵は茶色っぽい殻に包まれているし、中身は白身と黄身になっているからだ。
一番の問題だった、僕が町へ行ってしまう問題は、セーレスがあっさりと許可をくれることで解決した。
最初はあんなに嫌がっていたのだが、僕は根気強く彼女を説得した。
僕の家はここだ、セーレスの側にいると、そう何度も彼女の目を見ながら説得を続けた。最後、彼女は何故か赤くなりながら頷いてくれた。
やっぱり彼女も大好きな玉子料理は食べたいだろうし、自給自足だけではどうしても足りない物資があることは承知しているのだ。
例えばそれは野菜の種や苗だったり、彼女が狩猟で使う弓の弦だったり。
あとはリネン関係でタオルっぽい布だったり、料理で使う調味料などなどだ。
もちろんそれらはセーレス自らが望んで欲しいと言ったわけではなく、お金が余った場合にどんなものを優先させて購入しようか、ということを相談し合った結果出てきたのだ。
おかげで我が家の食事事情は一気にグレードアップした。
この前は町で購入した硬い硬い、石みたいなパンを、溶き卵とミルク、砂糖(超貴重)を入れてフレンチトーストを作ってあげたときは、飛び上がって喜んでいた。
今の所彼女に作ってあげた玉子料理で、彼女が好きな順位は一位『オムレツ』、二位『フレンチトースト』、三位『まんま、塩かけゆで卵』の順番である。
というか新しい料理を作れば必ずそれを気に入り、しばらくそればっかりリクエストするようになるのだ。今度は茶碗蒸しもどきを作ろうかと思っているのだが、恐らく一週間は茶碗蒸し生活が続くことになるだろう。まあいいんだけどね。
さて、そんなこんなで本日は四度目の町探訪である。
いくら僕が町に行くのを了承してくれたとはいえ、セーレスは毎回森と街道の境界線までついてきてくれる。
もう道は覚えたし、ひとりで大丈夫だよ、と言っているのだがそれでも毎回必ず送ってくれるのだ。さすがに最初の頃のように、ずっと街道脇で僕を待っていることはなくなったのだが、やっぱり僕が町の住人になってしまわないか、ちゃんと帰ってくるのか心配なのだろう。
もっとこの世界の言葉が堪能になれば、僕が今思っていることを100%彼女に伝えることができるのに。そうしたら彼女を不安がらせることもなくなるはずだ。
できるだけ早く用事を済ませて、セーレスの待っている我が家に帰ろう。
僕は改めてそう心に決めるのだった。
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