キューピッドなお兄ちゃん

小夜 美保子

第1話

 第二外国語の中国語。漢字だから馴染めるかな、…なんて軽い気持ちで取ったのが間違いだった。


中国語の文法は英語と同じSVO構文。高校生の頃、語学教科が割と得意だったわたしにとって、単語を覚えることは苦にならなかった。英語の授業も、漢文の授業も、毎日楽しみに受けていた。


そんなわたしの致命的な弱点は、発音だった。


英語でもイントネーションがおかしいとか、日本語のアクセントだとか、特に高校に常駐していたネイティヴの先生に怒られたけれど、中国語はその比ではなかった。


同じ母音なのに、どうして発音が違うの? 毎日音声を聴くようにしても、一向に違いが分からず、半年以上が過ぎた。


 ある日、大学の研究室で働いている一番上の兄が声をかけてきた。


美世子みよこちゃん。ぼくの研究室に、この間まで中国に留学に行っていた学生がいるけど、発音みてもらったらいいんじゃないかな」


 一も二もなく三もなく、わたしは兄の話に乗った。

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