第285話 景品マーブル
『いいじゃん! 許可するよ! 神主催のイベントにして報酬を出そうじゃないか!』
マーブル主神が手を叩いて賛同した。
神殿町の神殿内である。
"ネームド"を筆頭にした"狩人倶楽部"と"狐のお宿""竜の巣"が、神殿内に集合して座っていた。
皆、緊張の面持ちで沈黙を保っている。
全員の視線の先には、マーブル主神、輪廻の女神、オグノーズホーン、シュンが向かい合って対話を行っていた。
「感謝します」
シュンは低頭した。
死の国の仕切りで宵闇の女神が率いる魔王種と決戦を行うことになった経緯を報告し、マーブル主神の使徒として宵闇の女神の討伐を行う許可を得ているところだった。
『あの女王様の仕切りとなると、こっちも対価を積まなきゃならないよね?』
マーブル主神が訊ねた。
「はい」
シュンは頷いた。
『何を賭ける? 迷宮? 世界?』
「向こうは、主神様のお命を求めているようです」
『・・へ?』
マーブル主神の頬が引き
「無論、そんな要求は呑めないと伝えました。こちらが狩る側なのですから」
『だ、だよね! もちろんだとも! 何を言ってたんだ、まったく!』
「ですが、死の国の女王様が仰るには、対価の大きさがそのまま誓約の強さとなるそうです」
シュンは、横に浮かんでいる白翼の美少年を見た。
『女王様が見守る決闘なのです』
カーミュが頷いた。
『・・はい? それって、まさかの・・
マーブル主神の顔から血の気が退いた。
「そう呼ばれているそうですね」
『うわぁ・・あれをやるの? そりゃそうか。死の国の仕切りだもんなぁ。半端はやらないよねぇ』
マーブル主神が腕組みをして唸った。
「私は、今回の戦いをもって、神界から始まった一連の騒乱を終わらせたいと考えています」
シュンとしては、これ以上、面倒ごとが続くことは避けたい。一気に終わらせる好機だと考えていた。死の国の女王も、その意を汲んで"
『まあ・・勢力争いをやろうにも神界が空っぽだからね。この
マーブル主神がぶつぶつと呟く。
「先のことなど考えていないのではありませんか?」
『・・う~ん、そうか。そうだね・・ぶっちゃけ、宵闇さんに先なんて無いよね』
「それで、
シュンは話を元へ戻した。
『う・・』
「如何しましょう?」
『いやぁ、何ていうか・・ボクじゃないと駄目なの?』
マーブル主神がシュンを見る。
「宵闇の女神を誓約で縛るためには、相応の対価が必要と・・」
女神と同等以上の対価を用意できなければ意味が無い。
『そりゃぁ、分かるよ? 大神だし? ぶっちゃけ、ボク以上の神格を持ってる神は居なくなったし? でもさ、なんていうか・・そこまでやらないと駄目? 適当にお仕置きして追放したら?』
「どれが本体でどれが分体かの判別がつかず、そもそも、分体が幾つあるのかすら分からない・・宵闇の女神自身も認識していないだろう数が存在するそうですよ?」
何処にでも居て、何処にも居ない。宵闇の女神は非常に厄介な存在らしい。単純に見つけて討伐すれば終わるという話では無い。
だからこそ、死の国の女王が"
『う・・』
「死の国の女王様が執り行う
『うう・・』
「ほぼ全ての神が消滅した今、大神と同等以上の存在となると・・」
『ううう・・』
「宵闇の女神を討伐すれば今後の憂いは無くなります。この機を逃すべきでは無いと思います」
『そりゃあね? 対価にされない人はそう言うけどね?』
マーブル主神が拗ねた眼で見る。
「大丈夫です。勝てばいいのです」
シュンは穏やかに微笑した。
『いやいやいやいや・・それって、駄目なやつだから! 大体、あれだよ? 賭け事とかで負けが込むのって、そういう考えの人だからね? 借金で首が回らなくなるからね?』
マーブル主神が声を荒げる。
「私は賭け事は嫌いです」
『賭けてるじゃん! ボクの命がかかってるじゃん!』
「負けが無い勝負ですよ? 賭けとは違います」
『そんなの分かんないでしょ? 勝負事って何が起こるか分かんないでしょ? どうすんの? すっごい奥の手とか隠してたら?』
「その時はその時です」
『ちょっ! それじゃ駄目じゃん! そんなの駄目でしょ? ねぇ、闇ちゃん? 宵闇さんは強いんだよね?』
マーブル主神が後ろに寄りそう女神に助けを求める。
『宵闇の女神は凶神より手強い存在です。古来、神敵を討伐する際には常に先陣を任されていたほどの大神です』
輪廻の女神が答えた。
『ほ、ほらっ・・どうすんの? ヤバい相手なんだよ?』
「狩るべき獲物に返り討ちされるのは面白くありませんね」
シュンの口元に笑みが浮かんだ。
『君ねぇ? 笑い事じゃないんだよ? ボクが死ぬってことは、世界が失われるってことなんだよ?』
マーブル主神がシュンを指さして叫ぶ。
「必ず勝ちます。大丈夫です」
シュンは穏やかな口調で言った。
『だったら、根拠を示してよ! そんなの、意気込みだけなら誰だって言えるんだからね? 絶対に勝てるって根拠は?』
マーブル主神が騒ぎ始めた時、
『うだうだ言って、男らしくないのです』
カーミュが呆れ顔で言った。
『悪霊君は黙って!』
『カーミュは悪霊じゃないです! 女王様の名代なのです!』
カーミュがぴしゃりと言い返す。
『・・げっ? 嘘でしょ?』
死の国の女王名代と聴いて、マーブル主神が仰け反った。
『カーミュは嘘が嫌いなのです。
『ええと? つまり?』
『今から、ご主人に強い武器を渡したりできないです。強い魔法を教えたりも駄目なのです。後出しは禁止なのです』
カーミュが厳かな口調で告げる。
『・・そうなの?』
マーブル主神の片眉が痙攣した。
『
『・・へぇ、そうなんだぁ』
『逆にどんな武器でも、今所持している物は使用できるです』
『君はどっちの味方なの?』
『カーミュはご主人の味方なのです。でも、御役目は果たさないと駄目なのです』
『・・なんか嫌な予感しかしないんだけど、誰か代わってくれないかなぁ・・』
マーブル主神が輪廻の女神を振り返った。
『闇でよければ』
即座に、輪廻の女神が頷いて見せた。
『ああ、いや・・さすがにそれは無い』
マーブル主神が慌てて首を振った。
『闇は、構いませんよ?』
『いいえ、今のは気の迷い。これは、ボクの役目だからね。残念だけど、シュン君の言う通り、賭ける神格が大きければ大きいほど誓約は強力になる。今の世界に、ボク以上の適任者は存在しません』
マーブル主神が宣言した。
『最初からそう言ってるのです』
カーミュが嘆息する。
『う、うるさいな! 心の準備ってものがあるんだよ! だって、そうでしょ? 勝負に絶対は無いんだからね?』
『ご主人が負けるはずがないのです。無駄な心配なのです』
『だから、万一だよ! 万が一のことを心配してるの!』
「ところで、女王様の話では、決闘には何らかの制約があるらしいが?」
シュンはカーミュに訊ねた。
『たぶん、もう直ぐお便りが届くです。
カーミュが答えた。"名代"ではあるが、細かな約束事はカーミュも知らないのだ。
『それって・・でも、シュン君の方が不利なんじゃない? 多分、アルマドラ・ナイトを使用禁止にされるでしょ? 相手は、あの宵闇さんだよ?
マーブル主神が不安顔で言った。どうしても不安が拭えないらしい。
『でも、ご主人と宵闇が本気でぶつかったら世界が消えるです』
カーミュが言う。
『・・まあ、そうなんだけどさ』
『十分な結界は張るです。でも、何か制限をするです』
『う~ん・・なんか心配だなぁ』
『臆病なのです』
カーミュが呆れ顔で指摘した。
『うるさいよ! ボクは慎重なの! 臆病とは違います!』
再び、マーブル主神が騒ぎ始めた時、
「考えたのですが・・」
シュンは両者の言い争いに割って入った。
『はい、来たぁ! 来ましたよぉ!』
マーブル主神が身構える。
「私のレベルは、いつ上げて頂けるのでしょう?」
『へっ? あ・・ああっ!』
マーブル主神の眼と口が大きく開いた。
「過去に約束されていたにも関わらず、現在までに履行されていないこと・・それを決闘前に精算して頂く。カーミュ、それは違反になるのかな?」
シュンは、カーミュに訊ねた。
『さすがご主人なのです! ちょっと女王様に訊いてみるです!』
カーミュが喜色を浮かべて軽く手を打合せ、そのまま宙に溶けるように消えていった。
『むむむ・・さすがはシュン君、悪魔的に頭が回るね』
「悪魔・・ですか?」
『あぁいや、感心したってことさ。ははは・・ああ、そうだった、そうだった! すっかり忘れてたね! 君のレベルのことを忘れちゃってたよ!』
マーブル主神が嬉しそうに笑う。
「今更ですが、過去分まで
『うむ! 任せたまえ! 他でもない、ボクの命がかかってるんだ! あらゆる手段を講じて君の・・君達"ネームド"の経験値を算定してみせよう!』
マーブル主神が力強く宣言した。
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