第225話 不意打ち
『うわぁ・・そんな事になってんの? って言うか、文明のレベルが違い過ぎでしょ! こっち来んなよな!』
マーブル主神が、空中で手足をばたつかせて憤慨している。
異界で見つけたリセッタ・バグや甲胄人形、船らしき物についての報告をしたところだ。今回は、ユアとユナも一緒だった。
『それ・・ボクの世界にも撒くつもりかなぁ?』
マーブル主神が不安げに唸る。
「もう散布済みでしょう」
シュンは断定した。
『げぇっ・・いや、そんなことする? 移民して来るつもりなんでしょ? 世界を壊しちゃったら意味無いじゃん?』
「結局、どうやっても手に入らないとなれば、壊してしまおうと・・太陽神などは、そういう動きをとるのではありませんか?」
『・・むむむ。あいつ、大神なんだから、自分で創世できるくせに・・あぁ、でも、主神のボクの許可が必要なんだよね』
マーブル主神が上下逆さまに浮かんだまま腕組みをする。
「つまり、この世界を質に、創世の許可を引き出そうという事ですか?」
『まあ、そうなんじゃない? ボクが気に入らないってだけで、こんな騒動やらかす?』
「他の神から接触はありましたか?」
シュンは訊ねた。"狐のお宿"と"竜の巣"に、神と使徒が討たれたのだ。それなりの反応があってもおかしくは無い。
『・・無いよ』
マーブル主神が首を振る。
「では、もう幾柱か魂石にしておきましょう」
もう少し、敵対する事の危険性を理解して貰わなければいけないらしい。
『・・ボクが、こんなに嫌われてるなんて、思わなかったなぁ』
マーブル主神が淋しそうに肩を落とした。
「主神様を嫌っているというより、まだ向こうが優位だと思っているのかもしれませんね」
『そうなの? そりゃあ、数は多いけど・・どうするのかな? 人間の国々を纏め上げて人数だけ揃えたって・・君なら瞬殺でしょ?』
神々の反応は、マーブル主神にも理解できないらしい。
「アルマドラ・ナイトの全解放は、2分10秒が限界でした。予想以上の破壊力を発揮しましたが・・」
『・・が?』
「こちらの世界では使えません」
あまりにも威力が高く、危険過ぎる。嘘偽り無く、瞬時に世界を消し飛ばすだろう。
『やっぱり、封印しとく?』
「いえ、万が一・・この世界が太陽神や異界神の手に渡るような事態になれば使用します」
『う、うん・・いやっ! そんなことはさせないよ? 断固阻止するんだからね?』
「無論です」
シュンは頷いた。
『早まらないでね? ねっ?』
「努力します」
『ちょっとぉ~、婚約者さん達ぃ~?』
マーブル主神が、ユアとユナに声を掛けた。
「ゴッド? 何か用?」
「ゴッド? 思索の邪魔する?」
ユアとユナが振り向いた。頬が少し膨らみ、モグモグと動いている。
『いや、思索って・・何か食べてんじゃん! 何それ? 甘い匂いがするんだけど?』
マーブル主神が2人の口元を指さした。
「考え事には糖分ですよ?」
「甘味で頭を蘇らせるのですよ?」
ユアとユナが澄ました顔で言う。
『じゃあ、ボクにも甘味を頂戴っ! ボクなんか、ずうっと頭抱えて唸ってんだから! みんなしてボクを裏切って・・もう、ボクの心はズタズタだから!』
マーブル主神がユアとユナの方へ詰め寄った。
「ボス・・ゴッドが怖い」
「ボス・・ゴッドが虐める」
ユアとユナが、泣き真似をしながらシュンの方に駆けて来る。
『ちょっ!? 何もしてないじゃん! いやっ、君も見てたよね? ボクは酷いことなんか何もやってないよ?』
「2人に何か用があったのでは?」
シュンは訊ねた。
『え? あ、ああ・・そうだった。君が無茶をやらないように監視をお願いするところだった』
マーブル主神が言うと、ユアとユナが笑顔で頷いた。
「監視は任せる!」
「安全第一!」
「神様、このリセッタ・バグを排除する物を創って頂けませんか?」
ユアとユナを相手に話をしようとするマーブル主神に、シュンが声を掛けた。
『はい? また、どういう流れでそんな話が・・ええと、リセッタ・バグというのは? ああ、金属喰いの奴ね。他にも似たようなのが散布された可能性があるんだっけ?』
「当然、そう考えるべきでしょう」
金属だけではなく、生き物を害する"バグ"が散布された可能性だってあるのだ。
『ええと・・つまり、ボクの世界に持ち込まれた異界の異物を排除するための物?』
「排除する仕掛けか・・道具が何種類か欲しいですね」
一種類だけでは対抗されるかもしれない。
『ふうむ・・確かに、異界からの品だという証拠もあるし、世界を護る主神として介入する理由になるね』
「すでに散布され、こちらの世界に影響が出ているでしょうが・・まだ間に合います」
『ふふん、ボクは物造りで負ける気は無いよ!』
マーブル主神が、自信ありげに言い切った。
「よろしくお願いします。私の方でも、対抗策となる品の製作をムジェリにお願いしますが、神様に創って頂けるなら、それに越したことはありません」
シュンは深々と低頭した。
『任せたまえ! 異界の玩具なんかには絶対に負けない物を創って散布するよ!』
マーブル主神が拳を突き上げて宣言する。
「ありがとうございます」
シュンは再び頭を下げた。代わって、ユアとユナがするすると前に出ると、マーブル主神を左右から囲んだ。
『な・・なんだい?』
「これを進呈する」
「至高の逸品」
ユアとユナが、マーブル主神の前に、リボンの掛かった小箱を差し出した。
『・・なんだい、これ?』
恐る恐る小箱を受け取ったマーブル主神が、2人の顔を交互に見る。
「感謝の気持ち!」
「お世話になっている御礼!」
ユアとユナが、両手に握っていた物をマーブル主神の頭上へと撒いた。
『・・へっ?』
驚いて動けないマーブル主神の周りを、ひらひらと色とりどりの花びらが舞い散った。
「ゴッド、大変だけど大丈夫!」
「ゴッド、私達はとても感謝してる!」
ユアとユナが、マーブル主神の前に並んで丁寧にお辞儀をした。
「神様、ありがとう!」
「神様、ありがとう!」
『ぇ・・ぅ、うん・・』
いきなりの事で上手く声が出ない様子で、マーブル主神が手に抱えた小箱へ視線を伏せた。
「泣いちゃダメ」
「私達がついてる」
顔を覗き込むようにして、ユアとユナがマーブル主神の背中を
『な、泣いて無いし! これは汗だし!』
マーブル主神が慌てた様子で、逃げるように背中を向けた。
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