第220話 惨禍


 空気はある。毒素を少し感じる。HP、MP、SP数値に変化をもたらすほどの毒素では無いらしい。

 カーミュが灼いて拡げた空間を抜けるなり、手早く自分の体を調べてから、シュンはアルマドラ・ナイトを召喚して合身した。

 全高は15メートル。手に抱え持つVSSも、アルマドラ・ナイトに合わせて大型化している。


 ほぼ正面に浮いていた大きな"壺"めがけてVSSを連射した。威力が足りないようなら、"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"に替えるつもりだったが、放たれた銃弾は"壺"の外殻を易々と貫いた。向こう側まで貫通することは出来ず、"壺"の内部で跳ねる音がする。

 そのまま、連射を続けていると、"壺"の内側から連続した小爆発が起こり、黒煙を上げながら地表に向かって墜落を始めた。


 "壺"には、どうやら銃が効く。単純に撃って破壊すれば良いらしい。


「"壺"を破壊した」


 試しに、ユアとユナに話し掛けてみる。


『呼吸できる?』


『太陽ある?』


 ユアとユナから質問が飛んでくる。どうやら、"護耳の神珠"が使える空間らしい。


「少し毒素はあるが気になるほどでは無い。太陽は・・紫がかった物が2つ見える」


 質問に答えながら、"独楽コマ"のような建造物へ向かって接近して行った。


 近距離に浮いているように見えていたが・・。


「大きいな」


 "独楽コマ"の外輪は直径100キロメートルあるらしいが、真横から見た"独楽"の下の部分、円錐状になっている部分の高さも100キロメートル近い。

 VSSを収納して、代わりに"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"を握ると、上段に振りかぶって構えた。



 ヒュイィィィィィィィィーーーーー・・・・



 "魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"が高周波の震動音を響かせ、黄金色の光を放ち始める。


 "独楽コマ"から、"壺"が大量に溢れ出て、アルマドラ・ナイトめがけて無数の巨弾を放ちながら迫って来る。


 アルマドラ・ナイトが"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"を振り下ろした。


 黄金光の奔流が一直線に伸びて巨大な"独楽コマ"の側面から貫き、遙かな後方へと貫通して抜ける。同時に、光が伴う灼熱が前方一帯を灼き払い、群がって来た"壺"が炭化して崩れて消えた。


 前方では、巨大"独楽コマ"の半分近くが消失し、2つに割れて落下を始めていた。



 ヒュイィィィィィィィィーーーーー・・・・



 再び、"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"が高周波の震動音を響かせる。

 狙われている"独楽コマ"以外の、すべての"独楽コマ"から大量の"壺"が飛び出し、さらに大型の"円盤"が現れて雲霞のごとく視界を埋め尽くす。


 アルマドラ・ナイトが"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"を斬り下ろし、横殴りに薙ぎ払った。


 "独楽コマ"も"ツボ"も"円盤エンバン"も・・。


 黄金光に貫かれ、灼熱に溶解し、蒸発して消える。

 紫光を放つ太陽の下で、何万という数の爆発が連鎖し、吹き荒れる熱風が大気から水分を消し去り、岩を蒸発させる熱風が地表を荒れ狂って、生きとし生けるものを死滅させていく。



 ヒュイィィィィィィィィーーーーー・・・・



 "魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"を握ったアルマドラ・ナイトが、高熱の中で何とか形を留めている物を狙って、続けざまに黄金光を撃ち込んだ。


 7つあった巨大"独楽コマ"の内、一番離れた場所にあった"独楽コマ"が暴れ狂う熱に灼かれながら、距離を取って逃れようと移動を開始した。


「カーミュ、魂は?」


いびつなのです。でも、たくさん旅立ったのです』


「人では無いのか?」


『頭だけなのです』


「頭? 脳か?」


『頭だけがいっぱい詰まっているです』


 "独楽コマ"には、膨大な数の"頭"が乗っていたらしい。一つ一つに魂があり、それらが死んで死国へ旅立ったようだ。


「それが、ここの人の形か」


『何億と集まっているです。気持ち悪いのです』


 シュンが生きている世界では、王都と呼ばれるような都市でも、せいぜい1万人が暮らす程度だ。億の単位で"人"が集まっていると言われても想像がつかない。



 ヒュイィィィィィィィィーーーーー・・・・



 アルマドラ・ナイトは、高鳴る"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"の高周波音を響かせながら、最後に残った"独楽コマ"めがけて黄金光の貫通光を撃ち放った。


 瞬間、何かが正面に飛び込んで来た。

 迸る黄金光が遮られて四方へ飛び散り、逃走を図る"独楽コマ"を灼く。



 ヒュイィィィィィィィィーーーーー・・・・



 アルマドラ・ナイトが委細構わず、"独楽コマ"を追って一直線に飛翔する。

 その行く手に、大楯と曲剣を握った龍人が飛び込んで来た。身の丈が20メートル近い、白銀の鱗をした龍人の成体だった。

 先ほど、黄金光を浴びていながら、巨躯を覆う鱗にも、手にした武具にも傷1つついていない。


 突進するアルマドラ・ナイトを迎えて、白銀龍人が楯を前に曲剣を引いて身構える。


 巨躯と巨躯。

 互いに激しい衝突が予想されたが・・。


 ぶつかり合う寸前、アルマドラ・ナイトの姿が消えていた。

 直後、白銀龍人の背後で閃光が輝いた。


 瞬間移動で龍人の後ろへ抜けたアルマドラ・ナイトが最後の"独楽コマ"を狙って黄金光を放ったのだ。

 逃走中の"独楽コマ"が黄金光に射貫かれ、大破崩落しながら墜落していく。



 ヒュイィィィィィィィィーーーーー・・・・



 アルマドラ・ナイトが、"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"の高周波音を響かせながら、墜ちる塊めがけて追撃をかける。



 グルアァァァァァーーーー・・



 白銀鱗の龍人が激しい咆吼をあげて、アルマドラ・ナイトを追った。


 しかし、



 シュアァァァーーーー・・



 大気を灼きながら黄金の殺戮光が放たれ、落下中の"独楽コマ"の残骸を貫き灼き尽くしていた。



 ヒュイィィィィィィィィーーーーー・・・・



 ガアアァァァァーーーー・・



 白銀鱗の龍人がさせじと立ち塞がるが、アルマドラ・ナイトが連続して瞬間移動を繰り返して、残る残骸めがけて黄金光を放つ。



 カアァァァァァーーーー・・



 怒り狂った白銀鱗の龍人が、口腔から白銀の光を放ってアルマドラ・ナイトへ浴びせた。



 ヒュイィィィィィィィィーーーーー・・・・



 光を噴射中の龍人の耳元で、忌まわしい高周波音が聞こえてきた。



 グルァ・・?



 慌てて光の噴射を止めて振り向きかけた白銀鱗の龍人めがけて、"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"が振り下ろされた。



 ドシッ・・



 重く鈍い衝突音が鳴り、龍人が弾け飛ぶ。

 しかし、咄嗟の動きでかざした曲剣が致命の一撃を防ぎ、"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"は側頭部にある角をへし折っただけだった。

 続いて放たれた黄金光と熱風を、全身から銀光を放って無効化させると、白銀鱗の龍人が咆吼をあげてアルマドラ・ナイトに斬りかかった。


 対して、アルマドラ・ナイトは真っ向から斬り結ぶ。

 すでに、"独楽コマ"の殲滅は完了した。

 そして、龍人という"蜂"が出て来た。

 "蜂の巣"作戦は完了している。


 重たい曲剣の一撃を"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"で受け止め、アルマドラ・ナイトが龍人の腹部を蹴りつける。

 身を折って跳ね飛ぶ龍人が空中で身を捻り、何とか姿勢を整えたところを狙って、頭頂から"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"を斬り下ろした。

 龍人が、ぎりぎりで楯を持ち上げて受ける。だが、片腕で受け止められるような衝撃では無い。楯裏で龍人の顔面を殴り跳ばした形になり、再び、龍人が仰け反って姿勢を乱す。


 アルマドラ・ナイトは瞬間移動をして真後ろから横殴りに"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"を振り抜いた。

 しかし、故意か偶然か、長い尾が大剣の軌道へ跳ね上がって胴体の代わりに切断された。



 ガアァァァーー・・



 叫びながら、振り向いた龍人が曲剣で斬り払い、口腔から銀光を噴射する。

 曲剣を打ち払ったアルマドラ・ナイトが銀光を回避して脇へ回り込む。


 そこを、龍人が楯で殴りつけた。

 同時に、アルマドラ・ナイトが"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"を喉元めがけて突き出している。

 龍人の顎下から側頭部にかけて切っ先が抉って抜ける。

 次の動きは、互いに申し合わせたかのように似通っていた。


 龍人が曲剣を放して、アルマドラ・ナイトを逃すまいと掴みかかり、アルマドラ・ナイトも"魔神殺しの呪薔薇テロスローサ"を収納して龍人に組み付いている。

 期せずして、互いに抱きつく形で組み合っていた。



 グルアァァーー・・



 龍人が渾身の力を込めてアルマドラ・ナイトを抑え込みながら、首を捻って至近距離から銀光を浴びせようとする。寸前で、龍人の口に、するすると黒い触手が巻き付いて絞り上げた。


 直後に、龍人が無声の苦鳴をあげて身をよじった。

 押さえつけたはずのアルマドラ・ナイトによって、胴体がぎりぎりと抱き潰されていくのだ。


 長い口をテンタクル・ウィップで巻き取られ、首を左右に振りながら、龍人が懸命に逃れ出ようと身悶えるが、膂力りょりょくの差は圧倒的だった。

 白銀鱗が破砕音を立てて割れ砕け、骨がへし折れる音が響く。

 もうひと息で龍人の胴体が圧壊する。


 龍人の眼が生を諦めて焦点を失った瞬間、アルマドラ・ナイトは龍人を放して大きく跳び退すさった。さらに、瞬間移動をして距離を取る。


 上空から放たれた一条の閃光が、アルマドラ・ナイトが居た場所を貫いて地上まで奔り抜けていた。直後、地上で凄まじい爆発が起こり、熱気が遙かな上空まで噴き上がって来た。


『使徒、アルカンダス・・主命により参上した』


 どこか中性的な声が響いてくるが、上空にはそれらしい姿は見当たらない。


「お前のあるじは、この世の神か?」


 アルマドラ・ナイトからシュンの声が響き渡る。


『そのレギ・ドラゴを生ある内に解放しろ』


「レギ・ドラゴ・・?」


『お前の界と、こちらの界を繋ぐ糸一本・・切れば二度と、同じ時、同じ場所には戻れぬぞ?』


「・・おまえ達は何をしようとしていた?」


『移住だ』


「移住・・」


『この世界は寿命を迎えている。別の世界への入植を行っているところだ』


「すでに、完了した者も居るのか?」


『お前のおかげで、予定より大幅に少なくなったが・・』


「この世に神は存在するのか?」


『2柱』


「・・少ないな」


 どれだけ会話を重ねても、相手の居場所が掴めない。一方で、危険な感じだけは続いていた。


『レギ・ドラゴを解放しろ』


「・・分かった」


 テンタクル・ウィップを振って、白銀鱗の龍人を投げ放った。同時に、VSSを握って龍人めがけて連射する。



 キ、キィーーン・・



 着弾寸前で、黒翼を生やした甲胄姿の巨人が現れ、鏡のような楯を手に銃弾を受け止めていた。面頬の下で睨み付ける先から、アルマドラ・ナイトが消え失せている。界を繋いでいた霊糸も消えていた。


『・・向こうの使徒は弱兵ばかりだと聴いていたが』


 甲胄巨人は、半死半生のまま意識を失っている龍人を脇に抱えながら、地上に散った移民船の残骸を見下ろした。







=====

12月2日、誤記修正。

壺が内側(誤)ー 壺の内側(正)

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