第208話 女神の依頼
シュン達が魔王城を粉砕する二日前・・。
"ネームド"が"ガジェット・マイスター"のホームに集まり、お茶と新作のお菓子を楽しんでいた時に、シュンだけがマーブル主神に白い空間に呼び出された。
『夢幻の女神から救援要請があったよ』
そう言ったマーブル主神だが、表情からして乗り気では無さそうだった。
頼まれた内容は、迷宮に入り込んだ魔王種の駆除と、迷宮内に居るだろう使徒の救出だった。
「手遅れでしょう」
シュンは率直な感想を述べた。
状況を聴くに、すでに夢幻の迷宮には大量の魔王種が入り込んでおり、しかも迷宮入り口は魔王城で封鎖されているようだ。
迷宮に押し入られたのだから、使徒には魔王種に対抗する力が無いということになる。すでに、魔王種の急襲から10日近くが過ぎたという話だった。
「残念ですが、救出は不可能ですね」
『う~ん・・ボクもそう思うんだよね。でも、なんで魔王種なんかに入り込まれるかなぁ? 夢幻の女神って、結構な古株なんだよ? 神界に寄りつかないから会ったことは無いけど・・力だって、それなりに強いはずなんだけどなぁ』
マーブル主神が首を傾げている。
「魔王種を神々が討伐することに規制があるのですか?」
『ああ、それは出来ない決まりだ。魔王種が神界へ入り込もうとするなら退治しても良いんだけど、下層迷宮を含む地上世界の生き物を直接的に滅ぼす行為は許されていない』
「間接的には良いのですね?」
『うん・・だから前の主神は魔王種をばら撒くという手段をとったんだ』
マーブル主神が寂しそうに言った。
「それなら、夢幻の女神が、使徒や探索者などに強い武器や魔法を授ければ良いのでは?」
『そうなんだよねぇ・・実際、多くの迷宮ではそうしているはずなんだ。ああ、いくら神々でも、地上世界の住人のレベルは100までしか上げられないけどね?』
「そうなのですか?」
『うん。あとは、レベル限界を無くしてあげたり、君が言うように強い武器や防具、魔法なんかを授けたり・・なんだけど、これにも制限があってさ。無条件に与えることは禁止されているんだ』
マーブル主神がシュンを見た。
『覚えているかな? 死の国の将軍達が君に精霊獣を与えた時、試練を乗り越えた・・という形をとったでしょ?』
「・・ああ、あの時の」
シュンは頷いた。死国の兵が攻めてきた時、死国の将軍が憑依した死鬼兵と一騎打ちを行った。
『ああいう"試練"を乗り越えたという形式が必要なんだ』
「なるほど・・」
『ただねぇ・・夢幻の女神は、どうもボクをよく思っていないみたいなんだ。分かるけどね? ボクって、ぎりぎりまで前の主神側だったしさ?』
「あの女神が、何か失礼な事でも言いましたか?」
シュンは、マーブル主神の眼を見つめた。
『え? ああ・・いや、ただの愚痴程度だよ。ボクとしては、せっかく分配した領域を魔王種に侵されることが問題だからね』
「質問しても?」
『なんだい?』
「夢幻の女神は、地上世界に居るのですか? 魔王種に入り込まれた迷宮は、主神様の迷宮で言うところの下層迷宮のみですか? 中層あるいは上層部分も存在するのでしょうか?」
『下層部分だけさ。最大でも100階層までしか創造できない』
地上世界に、100階層以上の迷宮を築くためには主神の許可を得る必要があるそうだ。かつて、マーブル神は前の主神から許可を得て、900階層まで迷宮を伸ばしていったらしい。
「・・主神様の中層と上層はどうなりました?」
『オグ爺と龍神の争いに巻き込まれてボロボロ・・空間としては維持できているんだけど、凶神の汚れを取り除いた後で再構築するつもりだ』
「それは楽しみですね」
シュンにとっては朗報だ。今は壊れていても、いつか修復されて入ることが出来るという事なら楽しみに待つことができる。
『でもまあ・・君って、中層とか卒業しちゃってるけど?』
「見たことの無い獲物が居るのでしょう?」
『・・まあね』
マーブル主神が小さく頷いた。
「ぜひ狩ってみたいですね」
『そう? 歯ごたえが無くてつまんないんじゃない?』
「爪や牙、毛皮、骨・・初めての素材が手に入ると思うだけでも楽しみですね」
『ふ~ん・・』
マーブル主神が低く唸る。
「ところで、どうしますか?」
シュンは話題を戻した。夢幻の女神からの支援要請についてだ。
「その女神の迷宮・・アルマドラ・ナイトの封印を解いて下されば消滅させて参りますが?」
半日と掛からずに、迷宮があった痕跡だけを残して消し去ることが可能だろう。
『断じて、NO!』
マーブル主神が大きく首を振った。
「しかし、もう手遅れですよ?」
あまりに日にちが経ちすぎている。
『う~ん、まあね。そこはボクも同意かなぁ』
「それなら変に手間を掛けずに・・」
『断じて、NOです!』
マーブル主神が頑なに首を振る。
「・・そうですか。そうすると魔王城の撤去、突入してから迷宮内で魔王種の駆除をしなければなりませんね」
各階層を掃討しながら駆け下りて行くとなると、それなりに時間がかかってしまう。迷宮は100階層までかもしれないが、1層ごとの広さや形状は不明なのだ。
『一応、救援だからね?』
マーブル主神が不安げにシュンを見た。
「生存者などいないでしょう?」
『どこかに隠れて生き延びているかもしれないよ?』
入り組んだ迷宮の小部屋や、エスクードのような空間が隔てられた場所に避難している可能性がある。
「夢幻の女神はどこに居るのです?」
『・・迷宮の中だね』
「無事なのですか?」
『さすがに、上手く隠れてるんじゃない? 結界とか・・自衛のための神力の行使は禁じられていないんだから』
マーブル主神が苦笑した。
「迷宮の外に居るということは?」
シュンとしては、どこか他の場所に居てもらった方がありがたいのだが・・。
『それは無さそう』
マーブル主神が首を振る。
「理由を伺っても?」
『ボクの方でも色々と説得したんだけどさ、なんか外に出たくないんだって』
「しかし、迷宮内では戦いに巻き込む可能性がありますよ?」
『それも言ったけどね。使徒にやられる神体では無いそうだよ? 古い神様だから体も心も特別製らしい』
「自由にやっても女神に被害は及ばないと・・そういう理解で宜しいですか?」
『うん、宜しいよ』
マーブル主神が即答した。
そういう事なら、何も気にする必要は無い。やるだけやって、綺麗に魔王種を片付けてから、カーミュに魂石の鑑定をさせれば巻き込んだかどうか確認できる。
「私は砕魂者なので、万が一の場合は、主神様に蘇生をお願いする事になると思いますが・・」
『どうぞどうぞ。いつでも呼んでよ』
マーブル主神としても、夢幻の女神の態度を好ましくは思っていないようだ。
「承知しました」
シュンは低頭した。
『ああ、別件だけど、闇ちゃんが凶神の痕跡を見つけたみたい。そっちの方にも行ってもらうかもしれないから、また近々呼び出すかもしれないよぉ~』
マーブル主神がひらひらと手を振りながら消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます