第209話 ブリーフィング


 シュン達が魔王城を粉砕する前日・・。



「諸君、ついに我々は機神を手に入れた!」


「ルドラ・ナイトであ~る!」


 ユアとユナが壇上で声を張り上げていた。


 神殿町を出た場所に集められたのは、"狐のお宿"のアオイとタチヒコ、"竜の巣"のアレクとロシータ、"ガジェット・マイスター"のミリアム、ジニー、ディーン、それに旧アルダナ公国のジータレイド、天馬ペガサス騎士のルクーネの9名。そして、"ネームド"のユキシラとリールも居る。


「ささ・・ボス頼みます~」


「暖気完了です~」


 ユアとユナがシュンの手を引いて前に押し出した。


「本当に、これを読むのか?」


 シュンは、手渡された原稿に目を向けた。


「ボス、読んじゃダメ」


「覚えて喋る」


 2人が後ろへ数歩離れながら言った。

 無論、やり取りは全員に筒抜けに聞こえていて、笑みを浮かべて見守っていた。


「・・待たせた」


 シュンは、もう一度原稿に目を通してから全員の顔を見回した。


「ユアとユナから説明があったように、俺のアルマドラ・ナイトの能力を安全に抑える目的で、マーブル主神が15体の甲冑人形を分離させ、紋章神具として与えてくれた。正直なところ、どういう理屈なのか全く理解できていない。ただ、アルマドラ・ナイトとは違い、ルドラ・ナイトは完全なる武具であり、刀剣や銃器と同じく、自由に出し入れが可能だ。さらに、使用中はSPを消費するだけで体には負荷がかからないそうだ」


 武器については、マーブル主神から与えられた物であれば大型化した状態で使用できる。他にも、神銀を含む装備品であればルドラ・ナイトに常時持たせておく事ができるらしい。この場合は、ルドラ・ナイトを紋章化した際、装備品も一緒に紋章化され、再度具現化する際には装備された状態で現れるのだとか・・。


「まあ、その辺りの理屈は俺より、後ろの2人の方が詳しい。後で訊いてくれ」


「ボッス~・・原稿と違いますよ~」


「ボッス~・・雰囲気が壊れますよ~」


 後ろの2人がヒソヒソと言っている。


「やれやれ・・」


 シュンは軽く息を吐いた。


「・・新たに15体のルドラ・ナイトが手に入った事は僥倖ぎょうこうである。選抜隊は、明日、夢幻の迷宮に向けて進発する。本作戦は、ルドラ・ナイトの試験的運用を兼ねたものとなる。U3号で急行し、高空から突入、魔王城を破壊し、魔王種の殲滅しつつ、使徒及び女神の安否確認を行なう。女神が斃されていた場合は、魂石の回収をもって作戦行動を終了する。副官、前へ!」


「はっ!」


「はっ!」


 ユアとユナが凜々しく返事をして、紋章の入った箱を体の前で抱えて進み出た。


「本作戦に先んじて、ルドラ・ナイトの支給を行う。呼ばれ順に前に出て紋章を受け取り、副官の指示に従って契約の儀式を行ってくれ。各人向けに、ユ・・副官達が色を選んだようだ」


 シュンは整列した面々を見回した。


「ボッス~、色は内緒ですよ~」


「ボッス~、台詞が違いますよ~」


 両副官がシュンを振り返って苦情を言う。


「アレク、ロシータ・・アオイ、タチヒコ、ミリアム、ジニー、ディーン・・それから、ジータレイド、ルクーネの順だな」


 シュンが紙に並んだ名前を順に読み上げると、アレク達がユアとユナの前に行って、手のひらほどの金属製の紋章を受け取った。それぞれ、中央に色の違う宝石が埋め込まれている。


 ルドラ・ナイトは各個人に神具として貸与され、仮に他者が紋章を強奪したとしても使用できない仕組みになっていた。契約の儀式とは、紋章に埋められているマーブル主神特製の宝石に使用者を記憶させる作業だ。すでに、"ネームド"のメンバーは終わっている。


「大将っ! 試しても良いか?」


「良いぞ」


 と、言いかけたシュンをユアとユナが身振りで制止した。


「ボッス~?」


「ボッス~?」


「ん・・ああ、まだ台詞が残っていたか。ええと・・厳しい戦いが予想されるが、諸君ならやり遂げられると確信している・・じゃないな?」


「ボス、2枚目であります」


「ボス、ヒドイであります」


 頑張って原稿を書いたのに・・と、2人が不平を鳴らしている。


「・・マーブル主神の創造した世界において、高空からの甲冑人形による強襲は、世界史上初の試みになるだろう。魔王は迷宮内の制圧に気を取られ、上空の警戒をおろそかにしている。仮に、上空を警戒していたとしても、U3号による高速移動からの強襲には対応が遅れるだろう。本作戦名は"バンジー・ドール"・・人類史上にその名を刻む、ルドラ・ナイトによる降下作戦である」


 シュンは、原稿を見ながら一気に読み上げた。


「本作戦と同時に、作戦名"ランウェイ"を決行する。こちらは、周辺の国々に対する示威行動である。我らに敵対することの愚かさを思い知らせるための作戦となる」


 探知器により魔王種の密集した地域を選んで、わざわざルドラ・ナイトでおもむいて魔王種の駆除を行うことで、探知器の探知精度を確認しつつ、ルドラ・ナイトという甲胄人形の存在を知らしめる作戦だ。ルドラ・ナイトを見せる相手は、生き延びている人間でも魔王種でも良い。


「"ランウェイ"は、アオイ、タチヒコ、ジータレイド、ルクーネ。アオイが指揮をとれ」


「はい」


 アオイが頷いた。すぐさま、タチヒコが転移門の方へ走った。探知器の情報を集めに行ったのだろう。ジータレイドとルクーネはやや緊張気味だったが、アオイの視線を受けて頷いて見せた。


「"バンジー・ドール"は、アレク、ロシータ、それに"ネームド"だ。U3号の操車要員として、ミリアム、ジニー、ディーン」


 シュンはアレク達へ視線を向けた。


「おう! やってやるぜぇ!」


「銃器はそのまま使えるのですね?」


 ロシータがユアとユナに訊ねる。


「ルドラに合わせて大きくなる」


「アタッチも使える。消費MPは同じ」


「そういうことなら、私の銃が役に立ちますね」


 ロシータが薄く笑った。

 M240Gという重機関銃・・その巨大版だ。撃ち出される銃弾も相応の大きさと威力になる。魔王種にとっては脅威となるだろう。


「今回の作戦が終了した後、ルドラ・ナイト用に刀剣や槍などの武器を作るつもりだ。それぞれ、どういった物が良いか考えておいてくれ」


 言いながら、シュンは携行用の薬品類を並べた。

 SP継続回復薬の秘薬級と特殊呪祓いの薬だ。SP薬は言うまでも無く、ルドラ用だ。呪祓いの方は凶神級の呪詛や悪疫を浴びても、重症に陥らない程度まで回復できる薬だった。

 いずれ、完全に治す薬を作るつもりだが、まだそこまで至っていない。


「カリナ」


 シュンは虚空に向かって呼び掛けた。


「統括」


 黒装束の羽根妖精ピクシーが姿を現した。誰の作なのか、似たような黒装束を何着も持っているらしく、少しずつ形が違うようだった。


「リールの石人形ゴレムが迷宮各層、及び神殿町に設置されている。危急の際は、お前の判断で起動させろ」


「承知しました。統括がお戻りになられるまで持ち堪えてみせます」


 カリナが低頭しながら消えていった。

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