第149話 情報共有
「各層の異変についてという事でしたので、低層も含めて見回って来ました」
アオイ、アレク、ケイナが報告書をシュンに渡した。全員、報告のために商工ギルドで"ネームド"の帰還を待っていたのだ。
「神からの情報を伝えておく。ただし、質問をされても俺には答えられない内容がある」
そう前置いて、シュンは迷宮で起きている事について、円卓に座っているアオイ、タチヒコ、アレク、ロシータ、ケイナ、ミリアムの6人を見回しながら話して聴かせた。神様からは特に口止めをされていない。聞き知ったことの全てを話した。
「迷宮は700階層以上あるが、現在は100階までしか行けない。その上の階層は切り離されたような状況らしい」
「龍人というのが、74階の?」
タチヒコが訊いた。
「そうだ。あれは幼体らしいが・・この迷宮の神様と龍神、それに他の世界の神が神界で争っているそうだ」
「100階層までの管理をシュン様がなさっているのですよね?」
情報を書き留めた紙を見ながら、ロシータが訊いた。
「管理人の1人だな。主に、悪魔や魔神の討伐を任されている」
「私達が居る下層はどうなるのでしょう?」
「このままだ」
シュンは断言した。悪魔や魔神に好き勝手をさせるつもりは無い。
「しかし、悪魔や魔神が侵入し続ければ・・」
タチヒコが不安を口にする。
「アレク、レベルは?」
シュンは、"竜の巣"のアレクを見た。
「118になったぜ」
日々レベル上げを続けていたらしい。100を超えていた。アレクだけで無く、ロシータやアオイ、タチヒコもレベル100を超えたそうだ。"ガジェット・マイスター"のケイナとミリアムはまだレベル91らしい。
「100階の龍は斃せるな?」
シュンの問いかけにアレクが頷いた。
「パーティでやっと斃せるくらいになった。うちのレギオンなら同時に何頭か相手にできるぜ」
「ほとんどの魔神は、100階の龍より弱い。油断しなければ問題無く斃せるはずだ」
「ふん、異界の連中は・・100階の龍並か」
アレクが鼻を鳴らした。
「こっちの人間が住める世界じゃないわね」
ケイナが肩を竦めた。
「この中に、外の商人や貴族と取り引きをやっているパーティやレギオンがあるか?」
シュンは、アオイやロシータの顔を見た。
「シュン様、"ケットシー"は、商人と貴族のどちらとも大規模な商取り引きをやっておりますわ」
「最近はどうだ?」
「異変という観点から?」
ロシータが訊く。
「そうだ」
「外からの依頼内容について、正確に情報を纏めさせます。1時間ほどください」
そう言って、ロシータが後ろに待たせている修道女服姿の少女に頷いて見せた。
「アオイ達はどうだ?」
「"狐のお宿"の取り引き状況も調べさせましょう」
シュンの問いかけに、アオイが頷きながらタチヒコを見る。
「外にも魔神が紛れている。王や貴族になりすましていたり・・外に出ている探索者を操っていたようだ。先日、"ホワイトクラウン"というパーティが決闘を挑んできた。強制転移をする魔導具を使った上に、転移先では、魔導師の集団が何かの儀式めいたことをやっていた。あれほどの仕掛けは、探索者だけで出来ることでは無いだろう」
シュンは、イルフォニア神殿とセルフォリア聖王国の王城で起きたことを話した。
「あらあら、伝説のパーティじゃありませんか」
ロシータが苦笑する。他の面々も笑っていた。
「セルフォリアは、この迷宮の北東に位置する大国だ。イルフォニア神教を国教とする歴史ある国で、属国、属州を合わせれば、大陸の三分の一を占める領土を持っている・・らしい」
シュンの知識は、狩人の師であるエラードの受け売りだ。今ひとつ自信が無い。
「迷宮の周囲の迷宮都市を含め、この辺り一帯はテンパード公国の支配地だと理解していましたが、セルフォリアとテンパードの力関係は?」
タチヒコが手帳を見ながら訊いた。
「テンパードは公国とは言っているが、迷宮都市一つだけの国だ。中立地帯に囲まれているだけで、北東側はセルフォリア、西はミンシェア、南はゼルギスという三大国が周囲にある」
シュンの説明に合わせて、ユアとユナが円卓上に地図を拡げた。
「迷宮を攻めている軍はどこの国でしょうか?」
アオイが地図を見つめる。
「一国だけが抜け駆けは出来ないだろう」
「つまり・・三国が共闘?」
「魔神なり、魔憑きなりが上手く立ち回ったのかもしれないな」
現に、セルフォリア聖王の王城には、魔神と魔憑きが棲み着いていた。
「外の連中を殺したら罪になるのか?」
不意に、アレクが訊いてきた。
「迷宮から出た村のある地域は迷宮の領域らしい。許可無く侵入した者を殺しても罪にならない」
「迷宮都市は?」
「あそこは、迷宮の領域の外だ。罪に問う、問わないは、神が定めた迷宮の規則とは別に、その地域の有力者の裁量に委ねられる」
領主が事の善し悪しを決める。基本的には身分が高い者、裕福な者の証言が採用される。
「従う必要はねぇよな?」
アレクが獰猛な笑みを浮かべた。
「好きにすれば良い。ただ、この迷宮の神、そして輪廻の女神が禁じた行いはするな」
「おう、そこは約束するぜ! 女神さんには会ったことがねぇが・・」
「崇めよ!」
「女神様であ〜る!」
ユアとユナが帳面を開いて、女神の似顔絵をアレクに見せた。
「おう! すげぇ美人じゃねぇか! さすが女神様だな」
「女神アリテシアだ」
シュンは苦笑気味に小さく息をついた。
「どうした?」
浮かぬ様子のシュンに気付いて、アレクが訊いた。
「神に・・宗教を作れと命じられた」
「はあ? 宗教って・・あんなもん、シュンが作るのかよ?」
アレクが呆気に取られた顔で見る。
「神の命令だ。女神アリテシアを崇める宗教を作って世に広めろと」
何をどうすれば良いのか、考えがまとまらない。何しろ初めての経験だ。
「宗教ですか。この世界の宗教については詳しく知りませんが・・新興の宗教が入り込む余地があるのでしょうか?」
アオイが首を傾げる。
「そりゃぁ、何かお祈りっぽいことをやって、人助けとか、慈善活動すりゃあ良いんじゃねぇか?」
「本気で馬鹿ですね。何十年、何百年と親子代々同じ教会や神殿に通っている人達に、いきなり宗旨を変えろと言っても聞く耳を持ちませんよ」
ロシータが言った。例え、司祭や司教の悪事が発覚したり、醜聞が流れたりしても、宗旨を変える者はほとんどいないと、ロシータが言い切る。
「そんなもんかよ?」
アレクが不満げに口を尖らせながらも納得する。
「詳しそうだな」
シュンはロシータを見た。
「私はシュン様と同じ、原住民の孤児ですもの」
ロシータが微笑を浮かべた。
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