第18話 ユアとユナ


<0> Shun

 Lv:1

 HP:27

 MP:6

 SP:322

 EX:1/1(30min)


 巨鳥を仕留め終わった時の数値がこれだった。


(本当に、危なかったな)


 分銅鎖による接近戦は、あまりにも危険だった。

 巨鳥の攻撃はただの一撃も当たっていない。ただ、その翼が掠めたり、脚で引っ掻いた土石が当たったりしただけだ。それなのに、死にかけている。


 用意の傷薬は飲み尽くしたが、一つ新しく分かった事がある。傷薬は3本を超えると、呑んでも効かなくなった。そういう制限が設けられているらしい。本には書かれていなかったが・・。


 内臓に毒があったら即死なので、注意深く、体液に触れないように短刀を駆使して巨鳥の解体をやっていた。


 お目当ての素材がある。

 この巨鳥の胃袋だ。羽根や爪、クチバシもそれなりに価値があるが、何と言っても胃袋が凄い。まあ、魔物図録の記載を信じるならば・・だ。


 レベル25以上じゃないと意味が無いのかも知れないし、さらに言うなら、異邦人しか使えないかもしれ無いが・・。


(よし・・あったぞ!)


 シュンは胃袋から大きな石を取り出して喜色を浮かべた。魔物図録には、一つでも見つかれば幸運と書いてあったが、3つも入っていた。

 一番大きな物はシュンの頭くらいあり、他の2つは拳大だった。


 賭けに勝つとはこういう感じか。

 湧き上がるような笑いの衝動に耐えつつ石を背負い袋に収納し、魔物図録に書かれていた通りに、喉を裂いて筋肉の束の隙間から縞々模様の管を引き出し、出来るだけ長く切り取った。


 本当なら、クチバシや爪、羽根も高値がつくらしいが、とてもじゃないが大き過ぎて運べない。羽根を8枚、分銅鎖で縛って担ぎあげると、巨鳥の死体から離れた。まだ村には戻れない。



<0> Shun

 Lv:1

 HP:102

 MP:96

 SP:2,079

 EX:1/1(30min)



 まだ少し危険を感じる数値だ。

 一応、念頭には5人パーティによる襲撃をおいてある。

 すでに陽が昇り始め、強い魔物は姿を消す時分。もう少し、回復を待った方が良いだろう。


(・・あれ、双子の方が来たのか)


 VSSを手に巨鳥のクチバシに身を寄せつつ照準器を覗くと、見覚えのある2人組が何やら話をしながら歩いていた。

 念のため、他に伏せている者が居ないか、注意深く視線を巡らせるが居ないようだ。この辺りは草は丈が短く、身を隠せる場所は無い。

 双子の後ろを追って来る者も居ないようだ。


 少し考えて、シュンは双子に姿が見えるように前に出た。


 しばらく気が付かなかったようだが、シュンから見て右側の方が指さして何か言い、すぐにこちらへ手を振って見せた。


(確か、爆発する武器だったな)


 双子の狩りの方法を遠目に見た事があるが、なかなか大変そうだった。うろうろと逃げ回った挙げ句に、本人達も巻き込まれそうな爆発が起こって魔物を数匹まとめて仕留めていた。いや、爆発後に治癒魔法を使っていたから巻き込まれたのだろう。


 HPとMPの回復がてら待っていると、双子が巨鳥の死骸を指さして声をあげつつ駆けてきた。


「大成果ぁ?」


「大勝利ぃ?」


 双子が騒ぐ。


「羽根が売れるらしい。持てるだけ、むしったらどうだ?」


 シュンは周囲を警戒しながら言った。


ほどこしは受けない」


「恵みは屈辱」


 双子が首を振る。


「そうか」


 シュンは2人に手を振って村へ向かって歩き出した。


「ちょっと強がった!」


「素直になれない!」


「ん?」


 双子の必死な声にシュンは振り返った。


「泥でもすする」


「お金が稼げない」


「・・そうか」


 よく分からないが・・。


「身体は売りたくない」


「愛の無い行為は嫌」


 この幼い双子が何を言いたいのか解せないまま、シュンはしばし考え、


「とりあえず、羽根をむしったら? 血に毒があるから、触れないようにな」


 巨鳥の死骸を指さした。


「神降臨」


「愛が芽生えそう」


 双子が何やら言いながら、巨鳥の羽根にしがみついて引っ張り始めた。


(まあ・・周囲の警戒くらいしてやろうか)


 シュンは、VSSを手に周辺の警戒を始めた。

 まあ、掛かっても20分くらいだろうと思ったのだが、


「ゴッド、お願いがある」


「土下座して祈る」


 双子が近付いて来て、地面に平伏した。


「え?」


 シュンは呆気にとられて2人を見た。


「力量不足」


はししか持てない」


「・・は?」


「助力を求める」


「ヘルプミー」


「なにが・・なにを?」


 シュンは、双子達の顔をまじまじと見て、その視線を巨鳥へ向けた。


「まだ、一枚もむしって無いのか? それなりに値段がつくそうだぞ?」


「喉から手が出る」


「涙で前が見えない」


 何やら深刻そうな双子の様子に、シュンは戸惑い顔のまま考え込んだ。


「・・もしかして、羽根が引き抜けないのか?」


 シュンは一つの答えに辿り着いた。


「穴に入りたい」


「顔から出火」


 双子が項垂うなだれた。

 どうやら、本気で羽根の一枚も引き抜けないらしい。

 シュンは、ちらと2人の手を見た。触れれば折れそうなくらいに細くて白い。


「・・・分かった。俺が取ろう」


 シュンは、そう言って2人の返事を待たずに、巨鳥へ歩み寄ると羽根を掴んで一気に引き抜いた。さらに、続けて1本、2本・・と引き抜いて地面へ放る。


「5枚くらいは抱えられるか? 羽根も、それなりに重いが・・」


「無念。3枚でゴザル」


「負けた。2枚でゴザル」


「・・・・合わせて5枚だな」


 シュンはそっと空を見上げた。どうして、双子に声を掛けてしまったんだろう。後悔の無いよう生きてきたつもりが、とんだ大後悔をしてしまっている。


「村へ戻って売ろう」


 それだけ言って、シュンは鎖で束ねた8枚の羽根を左肩に担ぎ、右手にVSSを持ったまま歩き出した。


「利子つけて恩返し」


「青天井」


「どうも」


 シュンは動くものが居ないか視線を配りながら、


「5人のパーティは村に居たか?」


 双子に訊いた。


「迷宮へ行った」


「そして誰も居なくなった」


「・・そうか」


 とにかく、村を出たのは間違い無いだろう。どこへ行ったのかは分からない。シュンを捜して西の川近くへ行ったかもしれない。


「迷宮組は戻ったか?」


「見かけない」


「顔を忘れそう」


「手持ちの食糧は保って2日分か。今日は戻って来ると思うけどな」


 迷宮の魔物は倒したら消える。食糧の現地調達は出来ないだろう。それとも、肉か何か、食べる物をドロップする魔物が居るのだろうか?


「大予言」


「千里眼」


「あ・・」


 シュンは小さく声を漏らして立ち止まった。名乗っていなかった。


「い?」


「う?」


 双子も立ち止まる。


「俺は、シュン」


「ご無礼した。ユアでゴザル」


「ご無礼した。ユナでゴザル」


 双子が胸の前で手を合掌させて名乗りながら一礼した。


「ユアにユナか・・名前までそっくりだな」


「耳たこ」


「飽き飽き」


 双子が揃って耳を塞いで口を尖らせる。


「16歳なんだよな?」


 シュンは2人の容姿へ視線を配った。

 12歳くらい。もしかしたら、もう少し幼いくらいの容姿だ。


「泣き叫ぶ?」


「号泣?」


「・・いや、ごめん。訊いただけだ」


 シュンは頭を下げて謝った。


「もちろん、許す」


「これも、耳たこ」


 双子が笑った。


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