第10話 遊ぶ神
『いやぁ・・すっごいね!』
シュンの目の前に、半袖の白シャツ、黒い半ズボン、水玉模様の蝶ネクタイをつけた5歳くらいの少年が居た。
何が起こったのかはシュンにも説明がつかない。
闇の中に声が響いた直後に、この奇妙な部屋に連れて来られたのだった。
『ボクは神様だよ。まあ、分かってると思うけどさ?』
「神様・・」
『闇の迷宮クリアおめでとう! 君が初めてです』
「闇の迷宮・・先ほどの?」
『うん、そうだよ? あれも迷宮、これも迷宮、あっちも迷宮、こっちも迷宮・・世界は迷宮でいっぱいなのです』
「はあ・・?」
『迷宮をクリアしたら、報酬が貰えるのです』
神と称する少年が自慢げに言った。
「報酬・・いや、クリアとは?」
言っている意味がまるで分からない。
『ん?ああ・・突破したって意味だね。完全制覇ってこと』
「それが、クリアですか」
『そそ・・ボクも長く神様やってるけど、選別会の子が、闇迷宮をクリアしちゃったのは初めてだよ? ほとんどの子は頭がおかしくなっちゃうからね』
怖いことを当たり前のように言う。
「他の3人はどうなりました?」
『結構頑張ったから、ぎりぎり及第点かなぁ・・手当をして先に行かせたよ。君には別組の居る召喚場に混ざって貰おうかなぁ』
手当をしたと言った。ということは、シュンとは別の、自己を保つ方で頑張ったのだろう。自傷による覚醒も試みたのかもしれない。
神は及第点だと言っているし、命があるなら一安心か。
「召喚・・異邦人ですか?」
『うん、そう。君も後で行くから心配しないで。ええと・・ちょっと君の記憶を調べるね。君から聴くより、そっちの方が早いから』
神がシュンを見ながら笑った。
「記憶・・?」
何となく気味が悪いが、どうしようもない。
シュンはじっと立っていた。
『う~ん・・ほうっ! なるほどねぇ・・ああ、そういうことなら、君は召喚に混ぜちゃった方が面白いかも』
「神様?」
聴いているだけで不安になってくる。
『いいから、いいから・・ボクに任せてよ!』
「・・はい」
シュンは不安を覚えつつも、神だという少年に従うことにした。
『うふふ・・いやぁ、このところ異世界から
裏の事情が透けて見えるようなことを口走っている。シュンを脅すためにわざと聴かせているのだろうか?
「魔物は、そんなに強いんですか?」
『そりゃあ強いよ。異邦人の子達には、すんごい武器とか能力をあげてるんだよ? でも、まるっきり歯が立たないで、サクッと死んじゃうんだよねぇ・・前回なんか、6日で誰も居なくなっちゃったし・・』
「3年生き延びた者が居たと聴きました」
シュンとしては、その可能性に縋りたい。
『ああ、浅い階層でひたすらレベル上げをやり続けた子が居たね。レベル25で外に出られるから・・でも、もうその方法は出来なくなりました』
少年神が、ぺろっと舌を出した。
「より難しくなったと?」
『リポップの時にルーレットが回ってね、低確率だけど高層の強い魔物が現れるようにしたんだ。時間制限付きにしてあるから、1日暴れたら消えるんだけど』
「リポップ?」
また分からない単語だ。
『迷宮の魔物は、いきなり湧いて出るんだよ?』
「何も無い所から・・ですか?」
初耳だ。魔物といっても生き物だろう? それが、どうして湧いて出るのか?
『うんうん、理解早くて良いね。その湧いて出ることを、ポップすると言います』
少年神が話を進めていく。
「ポップ・・魔物がポップ」
シュンはついていくのが精一杯だ。
『そんで、その魔物を斃すと、一定時間後にまた再度ポップします。それが、リポップです』
「・・分かりました」
魔物が出現することを "ポップ" 再出現を "リポップ"か。
『君は賭け事はやるかい?』
急に、少年神が訊いてきた。
「いいえ」
シュンは首を振った。
『ルーレット・・は知らないか。こう円盤がくるくる回る中に球を投げ入れてね・・ああ、つまり、運要素がいっぱいのクジ引きだね』
「クジですか」
頭に絵が浮かばない。噛み砕いて説明してくれようとしているのは分かるのだが。
『クジ運が悪いと、リポップの時にとんでもない魔物が出てくる』
「・・その、今のお話しでは、浅い層では弱い魔物、深い層では強い魔物と棲み分けが・・・ポップする魔物の強さが決まっているのですね?」
『素晴らしい理解力だよ、君・・そういうこと! 階層を登っていけば、段々とポップする魔物の強さが上がっていく仕組みだ』
少年神が喜色を浮かべて手を叩いた。
「そのリポップに、クジによる運の良し悪しがあり、運が悪いと弱い魔物しかいない浅い層でも、手に負えない魔物が出現・・ポップする。なるほど・・それだと引き籠もれない」
『魔物を斃さないとレベルは上がらない。レベルが上がらないと外には出られない・・もう戦うしか無いよね?』
「浅い層に引き籠もらず、レベル25まで到達した者は居るのですか?」
気になるところだ。
『もちろん、居たよ? 最近は不作だけど・・ってか、皆無になっちゃったけどね』
「つまり、人の身で強い魔物と戦えるようになる・・その方法はあるんですね?」
そういうことならば、絶望する必要は無い。どんなに細い糸でも、やり方を見つければ手繰り寄せられる。
『ちゃんと用意してあるんだ。まあ、条件は厳しいんだけどね。簡単じゃつまらないでしょ?』
少年神が片目をつむって見せた。
「・・まだ質問しても大丈夫ですか?」
『うん、良いよ。人間と話すのは久しぶりだもん』
「迷宮の中での犯罪、人間同士の争いは裁かれますか?」
同い年くらいの少年、少女が迷宮に籠もっていて、まともな精神状態を保てるとは思えない。
『強くなるための行為は裁かれない。殺人してもレベルは上がるからね。殺人は罪に問われません』
少年神がさらっと殺人を肯定した。
「窃盗や・・陵辱などは?」
何をしても良いとなると、歯止めが効かなくなってしまうだろう。
『線引きが難しいけど罪になるね。レベル上がらない行為だからね。罰は様々だから・・やってみたら分かるよ?』
少年神が目尻を下げる。
「本で読みましたが、パーティのメンバー?という立場なら、互いの攻撃が減衰すると書いてありましたが、どういう意味でしょうか?」
シュンは次の質問に移った。この機会に、訊けるだけ訊いてしまおうと思っていた。他に確かな回答を持っている存在が居ないのだから。
『フレンドリーファイアの頁だね。パーティというのは・・小隊・・一緒に戦うことを契約した相手ね。で、その一員をメンバーと言います。例えば、選別会の4人が契約してパーティを結成したら、君はそのパーティのメンバーということになる』
「なるほど」
単語の意味さえ分かれば、理屈は簡単だ。契約というのは分からないが、そういう魔法か何かがあるのだろう。
『迷宮は魔物と入り乱れて乱戦になることがあるんだ。その時に、味方の位置を気にしていたら武技や魔法をぶっ放せないからね。対策として、パーティのメンバー同士の攻撃は8割カット・・8割減になります』
「・・誤ってメンバーに矢が当たったとして、その矢が・・8割減?」
何を8割減らすのだろう?
『ああ、ダメージは分かるかな?』
「いいえ」
またしても新しい単語だ。
『矢が当たったとして、魔物に刺さると血が出たり肉が裂けたりするよね?』
「はい」
当たり前のことだ。
『迷宮の中では、与えた傷なんかをダメージと
「・・?」
意味が分からない。与えた傷がダメージで・・数字?
『矢が当たった時に、傷口の近くに小さく数字が表示されるんだ。それによって、相手にどのくらいの傷を与えたのか把握できます。数字はすぐに消えるんだけどね』
「ダメージ・・毒なども?」
『うん、毒だとスリップ・ダメージという分類だね。毒が効いている間、一定時間毎に数字が出るよ』
「一定時間?」
『スリップ・ダメージの評価判定期間だね。5秒間に一度、毒でどのくらいのダメージが与えられたか表示されるんだ』
まあ、実際に見てみないと分からないよね? と、少年神が笑った。
「・・・色々あるんですねぇ」
シュンは小さく溜息をついた。違和感が有り過ぎて理解が追いつかない。
『あはは・・さすがの君も頭が痛くなってきた? まあ、全部を覚える必要なんて無いよ? やってる内に、そういうものなんだって覚えられるし・・・うん、こんなところかな、準備出来たっと!』
神様がシュンを指さした。
途端、シュンの身体が淡い光に包まれた。
『闇迷宮のクリア報酬だよ。ボクの資格が付与された時点で、君の物として正式に登録される。使い方はその時に理解できるようになるから心配ない』
「ありがとうございます」
『君・・16歳なんだよね? いや、調べたから分かるんだけど・・15歳と9ヶ月にしては、落ち着きすぎてない? その歳で、そんな言葉遣いする子なんて居ないよ?』
少年神が首を傾げる。
「まだ15歳でした?」
『前後1年は資格対象内だから問題無いよ』
「・・そうですか」
『さて・・異世界の子達を迎えに行こうか。ああ、君はそのまま待ってて。異世界の子と一緒に喚び寄せるから』
「分かりました」
シュンは頷いた。
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8月12日、誤記修正。
肉が避けたり(誤)ー 肉が裂けたり(正)
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