第718話 盾を構えて星で壊す 星編

 破壊された障壁の下に、また障壁が現れる。それも一つではなく複数。矢が貫通する度に次々と障壁が現れ、その勢いを阻む。

 矢が壁を壊す都度、ガラスの割れるような音がリングを包む。その光景を見ている観客は固唾を飲んで、二組の戦いを、もっと言えば進む矢の行方を見守っていた。


「あにうえ、とまるよ」

「そうだね」


 静かに見守っていたレグルスくんが、にぱっと笑って告げる。

 やがて六つ現れた障壁を砕き、七つ目に至って無数の矢の全てが止まった。シャナさん貫通の効果が切れたのだろう。矢が力を失って地面に全て落ちた。


「これが私達の天与の大盾です」


 正確にはジェネリック天与の大盾だ。

 適当な厚さの防御障壁を複数枚重ねて、消える度に補充。ついでに魔術障壁の役割を持たせて、付与された貫通の効果がなくなるまで何枚も重ねる。これだけのこと。

 天与の大盾ほど大規模でなく、ピンポイント。今回の場合だとシェルターの天井部に壁を集中させればいいから、魔力消費もそれほど。求められるのは隔壁の出現ポイントのコントロールだけ。楽でいい。

 パラパラと崩れていく物理障壁の中から、希望の配達人パーティーが出てくる。

 生半可な障壁も魔術も、もう彼らには届かない。ジェネリック天与の大盾はウォークライにそう突き付けた。

 ふっとジークさんの顔が愉快そうに歪む。


「なるほど、それが菊乃井閣下から教えられた真の天与の大盾というわけか! 素晴らしい!」


 いや、違う。純正は簡単に破られたほう。

 でもそれを言ったところでな……。

 杏さんやシャナさんの表情が引き締まった。

 勝負は振り出しに戻ったところで、二組が睨み合う。

 一瞬にも随分長い間にも思えた睨み合いの末、動いたのは同時だった。

 杏さんのクロスボウがシェリーさんに向くのを、ビリーさんが投げナイフで牽制する。

 グレイさんだけでなくビリーさんも投げナイフの技を練習したのだろう、五本のナイフが杏さんに向かって行く。

 これも魔封じの効果を伴っているようで、切っ先が光る。けれどそれは杏さんに全て落とされて、僅かに彼女の髪を切っただけ。

 でも、それでいいんだ。


「君ら徹底して魔封じかけてくるね!?」

「だってこっちはシェリー以外魔術全然だし! あんまり魔術使われると困るっす!」


 正直に杏さんへとビリーさんが返す。

 その間にもグレイさんは小回りの利く身軽さを活かして、ジークさんの剛腕を避けつつ、シャナさんへと迫ろうとしている。


「ご領主様からは絶対魔術師を落とせって言われてるのに!」

「そりゃ、そう簡単に抜かれる訳にはいかないな!」

「くっそ、固い!」


 グレイさんの吼える声が、観客席にまで聞こえる。

 落とせと言われているシャナさんは、シェリーさんに苦笑いを向けた。二人とも魔術を打ち合ってはいるけど、相手の手の内が分かっているのか相殺合戦になっている。


「菊乃井侯爵様は魔術師に恨みが……?」

「いいえ、自分が魔術師だから怖さは解るって」

「ああ、まあ、そうか。評価されてるんだろうけど、複雑だね。お互い」

「はい……」


 聞こえる会話に、思い切り目を逸らす。

 だけど魔術師なんて放置してたらヤバい生き物なんだよ。

 けれどそろそろ頃合いだろう。

 じっとシャナさんとシェリーさんを見ていると、二人の身体から魔力が放たれているのが分かる。彼らの魔力が魔術に変る工程も視えてくるから、これが魔眼未満の効果なんだろう。

 シェリーさんの身体を包む光は薄桃、シャナさんは濃い緑。その緑の光がシャナさんから剥がされ、徐々にシェリーさんの方へ引き寄せられていた。


「そろそろですね」

「鳳蝶君?」

「あにうえ?」


 呟くとロマノフ先生とレグルスくんが首を傾げる。

 私の視界では、シャナさんの魔力がシェリーさんの薄桃の魔力に接続された。そしてシェリーさんの魔力の光が強くなる。薄桃の光がまるでシャナさんの魔力を食うように強くなっていくのに反して、濃い緑が輝きを失っていく。

 一方、シャナさんの表情は怪訝な物から焦りへと変わっていて。

 シャナさんの唇が「なぜだ!?」と動く。

 ヴィクトルさんが「あ!」と声を上げた。


「魔力の略奪!?」


 そう、シャナさんの魔力の輝きが小さくなったのは奪われているから。

 皆の視線が私に向かう。

 でもそれだけじゃない。

 私が何も言わないことを怪しみながら、ヴィクトルさんがリングに目を凝らす。それから「うわぁ」と呻いた。


「えぐぅ。ジークだっけ? 彼からも、杏って女の子からも、魔力の略奪してるじゃん」


 ビリーさんやグレイさんが使った投げナイフの技、あれも魔封じは「かかればいいな」程度。本命は彼等の魔力の略奪だったわけだ。


「特にジークさんには早いとこ魔力切れを起こしてもらわないと辛いですからね」


 彼の固有魔術を破るのは、あの三人一丸になっても辛かった。いくら修行してもその差がすぐに埋まるはずもない。なら、どうするか?

 答えは簡単、魔力を封じるか、ダメなら消費を大きくしてさっさと魔力切れに追い込むべし。

 シャナさんにしても杏さんにしても同じだ。

 ぽんっと奏くんが手を打った。


「反射に術者識別を付けたのは、確実にあの兄ちゃんの魔力をシェリー姉ちゃんに略奪させるためだったのか」

「そう。魔封じを返したと偽装して、略奪の魔術を仕込んどいたんだ。シャナさんが魔術を使うと消費魔力が多くなって、その分がシェリーさんに流れ込むように」


 これが私とナジェズダさんが仕込んだ魔術だ。

 シェリーさんの魔力量の少なさを憂えたナジェズダさんが、「無いならあるところから持ってくればいいじゃない!」精神を発揮して、やってくれました。

 識さんが口元をひくつかせる。


「なんでそんなに魔術師必殺なんです……?」

「え? 必殺だったら、魔力の略奪じゃなくて、魔素神経く魔術仕込むけど……?」

「えげつない!」


 こっちはレクスの服に私が仕込んだヤツ。

 魔封じを反射、相手が魔封じされればよし。魔封じされなかったら、次に魔術を遣ったら、魔力が逆流を起こし魔素神経を灼く。運が悪かったら魔素神経全廃、運が良くてもそれまでのように魔力を使うことは出来なくなる。

 この間先生達が真剣に私の魔封じの話をしてたので、同じくらい真剣に魔封じ対策を考えていたらこうなりました。

 そういえば先生達が一斉に私から目を逸らす。私のエゲツナサの九割九分九厘は先生達のエゲツナサで出来ています。


「にいちゃん、みて!」


 紡くんが叫ぶ。

 そんなことを話している間に、リングでは動きがあった。

 シャナさんがリングに膝をつくように崩れたのだ。杏さんが彼を守るためにフォローに入ろうとする。それをずっと杏さんをマークしていたビリーさんが追いかけた。

 しかし横合いからグレイさんを振り払ったジークさんの、丸太よりなお太く鋼より頑丈な拳が捉えて。

 衝撃を逸らすように受け身を取ったものの、ビリーさんが大きく吹き飛ばされた。グレイさんもまた、縋りつくようにジークさんの腕にとりつくも振り回されて。

 二人の壁が崩れたシェリーさんに、ジークさんが突進する。だがそれより早くジェネリック天与の大盾が、ジークさんを阻むように二人の間に現れた。けれど一枚目の壁が、ジークさんの突進に負けて砕け散る。

 別に魔力を練っていたシェリーさんが唇をほころばせた。


「遥か彼方の天よりきたりて、星よ! 全てを破(こ)壊(わ)せ! 破壊の星アナレタ!」


 刹那、きらっと空が光ったかと思うと雲の隙間から光の礫が降ってくる。それは一つ一つはドングリのような大きさながら、眩く光り目が眩むほどで。

 しかも物凄く落下スピードが速く、最初はぽつぽつと降っていた物が段々と量が増えていく。

 まるで雹が降っているかのような状況に、ぐっと呻いたもののジークさんの突進は止まらない。


「おおおおおおおおお!」


 ジークさんの雄たけびが響いた。

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