第81話 人生にそんな驚きは求めてない
真冬と言っても、たまに物凄く天気が良くて暖かい日があるもので。
お空は雲ひとつない快晴、小春日和といって良いだろう丁度良い温かさの外出日和、レグルスくんと奏くんとおててつないで、お弁当を持って、山深い奥地の洞窟───ダンジョン攻略中だ。
前はロマノフ先生とラーラさん、後ろは源三さんとヴィクトルさん、左右は宇都宮さんとタラちゃんに固めて貰って、てくてくと意外に整った洞窟の中を歩いてる。
ダンジョンに行く前に一応、街のギルドに寄って仮の冒険者登録を済ませた証明のドッグタグ型ネックレスを受け取ったんだけど、ローランさん曰くこのドッグタグはかなり優秀らしい。
まず魔力を通して加工をした金属の小さなドッグタグに、血液を一滴垂らす。そうすると、金属に施された魔術が反応して、ドッグタグに生体データが登録されるそうだ。
この技術は冒険者ギルドだけでなく、あらゆるギルドで使われていて、私がスパイスを仕入れている商人さんからもらった木札も、似た魔術が施されているらしい。
冒険者ギルドでは冒険者としての位階が上がった時と、年一回は情報更新を義務付けているそうで、情報更新も血を一滴貰ったタグに垂らせばおしまい。後はギルドにある専用の読み取り水晶で生体データを読み取るなどして、身分証の代わりにしているのだとか。
で、さ。
生体データの登録とかするんだから、当然それを作るときは嫌でもステータスを見なきゃいけなくて。
それでもステータスなんてのは究極の個人情報だから、ギルド職員と本人だけに開示されるんだけど、私の場合はロマノフ先生が「職員の精神衛生のために」って言うから、ローランさんを交えて私と先生で登録をしたんだよね。何か奏くんとレグルスくんで、職員さんが目を回すようなことがあったかららしい。
それで結論を言えば、ローランさんが「ぬぁんじゃ、こりゃぁぁぁぁぁっ!?」って野太い悲鳴を挙げて、ロマノフ先生が真顔になった。
そのステータスがこちらですよ、はいドンッ!
名前/菊乃井 鳳蝶
種族/人間
年齢/六歳
LV/10
職業/貴族・商人・付与魔術師(上級)・魔物使い(上級)・神の歌い手(究極の一)
スキル/調理A++ 裁縫Ex 栽培A++ 工芸A++ 調合A 剣術E 弓術E 馬術C 魔術A+ 調教A
特殊スキル/青の手 緑の手 超絶技巧 祝福の紡ぎ手(究極の一)
備考/百華公主の寵臣、イゴールの加護(中)、氷輪公主のご贔屓
見たことないのが生えていた。
いや、それよりも、「究極の一」ってなにさ。
魔術がある世界なんだから生体データも見られるんだろうぐらいにしか思ったことしかなかったけど、そもそもこのステータスとか言うのから本来疑問なんだけどね。
まあ、そこからはアレですよ。
肉があんまりなくなった頬っぺたをもちって「お肉は薄くなったけど肌のもちぷに具合は変わってない! 流石、ラーラ!」とか、ロマノフ先生がラーラさんのエステの技術を絶讚したり、ローランさんに拝まれたり、なんか忙しかったな。
「絶対に迂闊に他人に開示しちゃダメですからね!」って、ロマノフ先生とローランさんの二人がかりで耳にタコが小一時間で出来るほど言われたけど、見せるわけないよね。
んで、付与魔術師はいつも付与魔術を使ってるからだろうってことなんだけど、魔物使いに関しては原因はどうもタラちゃんらしい。
タラちゃんは氷輪様からの貰い物だけど、魔力をあげたことでどうやら私とタラちゃんは主従関係になったらしく、糸や布を作らせたのが調教に当たるんだそうな。知らんけど。
無用なトラブルを避けるために、魔物使いには使い魔を冒険者ギルドに登録する義務があるから、私の使い魔としてタラちゃんはドッグタグと同じ魔術が施された脚輪をはめている。
ちなみに冒険者登録と言うのは、仮のものならば赤ん坊でも出来るそうだ。
夫婦で冒険者をしていると、旅先での出産や子連れでの任務とかも珍しくないらしく、身分証明のために仮登録を許可しているとか。それをしておくと、万が一両親に不測の事態が起こっても、速やかに冒険者ギルドが遺されたこどもを保護してくれる仕組みになっているのだ。
登録を済ませたのだから私もレグルスくんも奏くんも、今日から冒険者(仮免)を名乗れるし、仮免冒険者でも受けられる依頼があるのでお小遣い稼ぎも出来るって訳。
まあ、仮免冒険者に用意されてる依頼なんて、足の悪いご老人に代わってお買い物とかだけど。
それでも奏くんには大したことらしく、「おれもこれからはぼうけん者の一員だな!」って鼻息を荒くしてた。
冒険者ってやっぱり男の子には人気の職業のようだ。
ロマノフ先生やラーラさんの冒険話も、奏くんやレグルスくんは楽しく聞いてるし。
ついでに女の子の人気職業は、帝都のオートクチュールのお針子さんだそうな。これはエリーゼが言ってた。
そうそう、エリーゼと言えば最近刺繍の腕やつまみ細工の腕が飛躍的に上がったそうで、何でかと思ってステータスをチェックしたら「青の手」が生えていたそうだ。
ぽてぽてと子供の歩みに合わせてるし、団体さんだからか、行き交う冒険者さん達からジロジロ見られるんだけど、私の手と糸を繋いでるタラちゃんを眼にすると、皆ぎょっとしてそそくさと逃げていく。タラちゃん、大人しいのにね。
中には絡んで来ようとする人もいるんだけど、そんな人は源三さんに一睨みされるか、ラーラさんやロマノフ先生の氷の微笑みで逃げていく。
「お気をつけて」とか声をかけてくれる友好的な人もいるから、冒険者って言っても千差万別だ。
さて、休み休み歩いて腹時計がお昼を訴える頃、ダンジョンの最短ルートを通って初心者が来られる層と中級冒険者推奨の層の境い目に到達。
ちょっと開けた場所に結界でも張ってお昼御飯にしようってことになって。
ランチ場所を探して奥に進んでいくと、ピクリとタラちゃんと繋がった糸が動く。
同時に前を行くロマノフ先生とラーラさんが、ぴたりと歩みを止めた。
「アリョーシャ、誰かが戦ってる」
「……おかしいな、この階層にはいないモンスターの気配がしますね」
「この階層にはいない……?」
「ええ。このフロアはどうしたって戦わなければいけないモンスターがいるんですが、それよりも強い気配がありまして……」
「だからって怖がらなくていいレベルだよ」と、ラーラさんは補足してくれたけど、この階層の要するにボスモンスターより強いのがこの先で暴れてるってことじゃん。
青ざめた私を他所に、レグルスくんや奏くんは何やらちょっとワクワクした雰囲気だし、源三さんも宇都宮さんも余り気にしてない感じ。
「ヴィーチャは敵影が見えたら、念のために結界を張って下さい。先に戦闘になってる誰かさん達が危なくなったら私とラーラが行きます」
「あいよ~」
ふわっふわな返事ですね。
まあ、それくらい焦ることのないモンスターなんだろうけども。
金属が打ち鳴らされる響きと、男性の怒号というか悲鳴というかが段々と近付いて来る。
じょじょに数名の人影と、カサカサと何かが蠢くのが見え始めた。
が、なんか、ちょっと、カサカサいう音が、厨房とかに油断するといる某黒くて艶々してて下手すると跳ぶイニシャルGっぽくて。
その内、襲われていた男の人が、こちらに気付いたらしく、助けを求めてか走り寄ってくるではないか。
そしてその後ろを追う、どうみてもイニシャルGにしか見えない人間サイズの昆虫は、なんと一匹だけじゃなくワサワサと十匹程も。
余りの気持ち悪さに、ふっと一瞬起きてるのに意識が遠ざかる───かと思いきや。
ぱしゅっと軽い音で何かがレグルスくんと奏くんの方から飛んだかと思うと、ウジャウジャと蠢いていたデカいGが二匹頭を貫かれて暫く痙攣した後、やがて弛緩する。
「にぃにのきらいなものは、れーがナイナイしてあげるー!」
「じいちゃん、当たったぞ!」
左右を見ると、奏くんとレグルスくんが弓を構えて、更に矢をつがえていて。
友達と弟が、いつの間にか戦闘民族になっていたとか、私聞いてないよ?
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