第2話 剣を持ったもの

 キイイイイィン――――――

 硬い金属の反響音に小鳥たちが逃げていく。やわらかな朝の日差しの中で、二人の人間が剣を持ち相対している。一人は20代前半の男、もう一人は10代半ばの女。二人とも綿シャツに綿の長ズボン姿だ。違いは男性のほうが上等な生地で、少女のほうが使いこまれているところだけ。男性の額に、汗が浮かぶ。

「……ラメル、もう少し手加減してくれても良いと思うんだけど?」

「レイン様。お言葉ですが王族をお守りするのが王室付き騎士の仕事です。私をクビにするおつもりですか?」

 押されている一方が不満の声を漏らすがもう一方は聞く耳を持たない。無言状態が続いた数秒後、じりじりと押され、文句を言ったほうの剣が勢い良く弾き飛ばされた。次の瞬間王子の首筋に刃が当てられる。

 弾かれた剣が地面に突き刺さった。

 額に汗が一粒流れる。

 王子は憮然としていたが、やがて笑い顔に変わった。

「まいった。さすがは希代にして期待の女流騎士、ラ・メール=イスリータ」

 すぐさま少女は膝をつき頭を垂れる。

「お褒めにあずかり光栄です、レイン様」



10数年前に大規模な政治革命が起きたことは、今のノイア王国をみる限り想像することは難しい。しかし、当時の国王が悪政を強いていたため、ほんの20年前までは、国内は荒れに荒れた。冬になる度に餓死者がでるのは当たり前。重税で農村・漁村は夜逃げする一族が多発した。都でも活気がなくなり、貴族は堕落していた。見かねたレインの父、サー・ウェルがわずかな仲間とともに国王を粛清し、現在のノイア王国がある。

許されざる背信・王座の乗っ取りだという名目で当時の取り巻きたちに報復される可能性もあったが、彼自身王族の血を薄いながらも引いている。国民は前王よりも立派であろう彼を受け入れ、王家周辺も落ち着きを取り戻した。諸外国が革命支持を表明したことも大きい。慈悲深く聡明なサー・ウェル国王の元、今では作物生産、人口が伸びている。誰もが渇望した平和な国が、ソリトワ大陸にできつつあった。


 しかし以前からの問題がなくなったわけではない。前王は裁判なしの処刑を断行し、学者や城勤めのものが多く犠牲になった。そのうえ、革命による混乱で多くの庶民階級がまき込まれて命を落とし孤児の増加に拍車をかけた。ラメルもその一人だ。

レインが拾わなければ死は確実だった。孤児のなかには王家を逆恨み、報復にやってくる者もいる。しかし騎士のなかでも選りすぐりの実力者、王室付き騎士によってすべて阻まれる。



「強くなったな」

藍色の髪が風に揺れる。

「負けるわけにはいきませんから」

「たまには接待試合をしてくれてもいいんだぞ」

「それをレイン様がいいますか?」

王子の公務は多い。それでも身体を鍛えることを信条とするレインは、滅多なことがない限り、己の騎士と稽古をすることを日課としている。

朝方の、城の一角。ラメルはこの時間が好きだった。

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